遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

1964東京五輪ポスター/亀倉雄策

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私がこのポスターと出会ったのは、10歳の頃。
それから50年の歳月が経つが、その感動は色あせることはない。

そもそも私にとっては、1964年の東京オリンピックは生涯で一番印象に残るイベントのひとつだった。10月10日に開催されたオリンピックの競技そのもののシリアスな大人の世界に魅了されたのは言うまでもない。その競技開催に至るまでの、新幹線、名神高速道路(首都高は知らなかった)、丹下健三設計の代々木体育館、三波春夫の「東京五輪音頭」、1000円硬貨まで発行された五輪記念硬貨桂小金治司会の番組「地上最大のクイズ」などなどの刺激的で魅力的な対象物が、田舎暮らしの10歳の私の五感に響いた。まさに、夢のような一時期だった。

その他、オリンピックにかかる刺激的な対象物のひとつに、この亀倉雄策(1915-1997)のポスターがあった。肌の色の違う男たちの迫力ある陸上競技100mのスタートを象徴したポスター。子どもにもはっきりわかるテーマであるにもかかわらず、地球規模でかっこよくて、今でも斬新だと感じられ、万人に五輪競技の期待感が伝わってくる。子どもだったので、亀倉雄策の名前は意識していないが、ポスターにははっとするくらい惹きつけられた。

余談ながら、それから約20年後の1985年。電電公社が民営化されてNTTが誕生した。その新会社のロゴマークが、青い「ダイナミック・ループ」と呼ばれるあのマークであった。このマークのデザイナーも、亀倉雄策であった。

30歳を少し超えていた私は、そのロゴマークのなんだかはっきりしないテーマにショックを受けた。 
その変哲のないシンプルさに、少し驚き少し拍子抜けした。しかし、他に類を見ない色と形で一瞬にしてNTTを想起させる力がある。デザイン後30年経っても色あせないダイナミズムがある。「ダイナミック・ループ」と呼ばれるのにふさわしい色と形である。CI(コーポレート・アイデンティティ)の鑑のような作品である。

2020年東京五輪のエンブレムの盗作疑惑を揶揄して言うのではないが、自分の「言葉」で表現するデザイナー亀倉雄策は、いつまでも倒れない作品を提供してくれるのである。