遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

續姿三四郎/黒澤明

イメージ 1


監督・脚本 黒澤明
出演 藤田進(姿三四郎)、大河内傳次郎(矢野正五郎)、月形龍之介(檜垣源之助/弟・鉄心)、河野秋武(檜垣源三郎)、轟夕起子森雅之宮口精二

公開  1945年5月3日 上映時間 82分

前作「姿三四郎」(1943年)で柔術の檜垣源之助との迫力ある異種格闘技で、三四郎人気は高まり続編となる黒澤明の監督作品第3作目「続 姿三四郎」をテレビ録画鑑賞。本作が公開されたのは終戦の少し前、1945年5月である。

道家姿三四郎が、本作では外国人ボクサー相手に異種格闘技に挑む。
また、檜垣源之助の弟で空手家の檜垣鉄心との異種格闘技の決戦がクライマックスに用意されている。

前作では出演していない、「羅生門」の森雅之と「七人の侍」の宮口精二が、文学座から参加していて、前作からのキャストと合わせて、今から見れば後の黒澤組を構成するゴージャスな出演陣で固められている。このことからも、前作が成功したことがうかがえる。

後に、東映水戸黄門の好々爺を演じ自身の代表作とした月形龍之介が、本作では二役に挑む。もう戦力をなくして廃人のようになった兄檜垣源之助と、エキセントリックな空手の達人弟檜垣鉄心を月と太陽のように演じ分けている。名演である。

藤田進は、悩み多き武骨な柔道青年を、素で演じているようで、未熟さも感じられるが好感が持てる。また、もう一人の主役であるベテラン俳優の大河内傳次郎は、貫禄があって味わい深い。

三四郎が禁を破って道場に大きな徳利を持ち込んで酒を飲む。そこに大河内演じる矢野正五郎が入ってきて、徳利の綱を手にして足で徳利を操って柔道の技を披露する。コッペパンにフォークを差して靴に見立ててダンスを踊らせたチャップリンを彷彿とさせる、見事な足わざの披瀝であった。

また、戦時中にもかかわらず、どこからこれだけ集めてきたのかと思わせるほど、多くの外国人がかたき役で出演している。彼らは、鬼畜米英を象徴していて、日本の古来の武道に凌駕される。前作のレビューにも書いたが、映画を撮るためになんとか国威発揚映画になるようにと、黒澤明は脚本を工夫した。
これまた、検閲を通ったシナリオを現場で修正したのであろうか、いずれにせよ、戦意高揚とは無関係の勧善懲悪娯楽大作にうまく仕上がっている。

前作のクライマックスの決闘シーンは、吹きすさぶ風に枯草がなびく荒野であったが、今回は猛吹雪の雪原が用意されている。まるで新雪の急勾配のゲレンデで、柔道と空手の一騎打ちが行われているような場面設定で、思わず笑ってしまった。藤田と月形両人は、寒かっただろうな。

本作は、歴史に残る名作ではないだろうが、人物を丹念に脚本で書きこんで性格付けを施し、娯楽のない戦時中に観客の心をつかんだ。これこそ黒澤映画の真骨頂だと言える(まだ少し青いけれど)。真冬に雨を降らせて田んぼのようなところで「七人の侍」の決闘を敢行した下地が、この雪原の決闘にも垣間見え、愉しい。