遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

クラッシュ/ポール・ハギス

イメージ 1

クラッシュ Crash
監督・脚本・原案・製作 ポール・ハギス
日本公開 2006年2月11日  上映時間 112分

2004年製作の映画をいまになってようやく鑑賞。ポール・ハギス監督の「クラッシュ」、録画していたものを独りで鑑賞、とても楽しめた面白かった。

多民族国家アメリカの縮図と言うべき街ロサンゼルスが映画の舞台。
白人、黒人、ヒスパニック、東洋人、カリビアン、イラン人などが映画の登場人物で、差別、偏見、憎悪、格差、悲哀などがスクリーンに次々と描かれる。

異なった人種間では当然ながら、同じ人種間の夫婦や親兄弟や職場の仲間同士の間にも、偏見や憎悪が作品で表面化されている。それらをの表現を見ていて、やるせなくて、この作品ではこれがいつまで続くのかといささかげんなりさせられる。

人種差別主義者であることを隠さない白人警官や検事の妻、拳銃を保持して好き勝手に狼藉を働く若い黒人、今保有している地位や名誉を捨てたくない黒人、絶望が絶望を呼ぶ悲しい移民商店主、幼い一人娘のために差別に耐えながら真摯に働く貧しい職人。彼ら彼女たちが、前半の差別や憎悪や悲哀を表象し、絶望的な気持ちを観るものに植え付ける。

前半の絶望的な気持ちが深ければ深いほど、後半の奇跡的な「希望の表現」が少しずつ見えてくるシーンに心が晴れてくる。心の奥底まで汚れた人間はそう多くはないし、一度の過ちなら救ってくれる人が少なからず(必ずしも100%ではないのだけれど)現れるということを、さらりと現実的な表現でポール・ハギスが見せてくれる。

さまざまな人種と職業で構成された老若男女が、どこかでつながっていて直接的に間接的に相関関係を形作っている。彼ら全ての登場人物がオムニバスの主役のように配置されていて、温かい希望が膨らんで連鎖していく原案・着想を提供した脚本家としてのポール・ハギスも、これまた見事である。

私のように感動を覚えたアカデミー協会員は、第78回(2005年)のアカデミー作品賞をこの「クラッシュ」に授けた。