遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

フォーン・ブース/ジョエル・シュマッカー

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出演者
日本公開 2003年11月22日
上映時間 81分

ジョエル・シュマッカー監督の「フォーン・ブース」のご紹介。おすぎの推薦映画のひとつで、公開から10年以上経ってはじめて鑑賞した。ちなみに、フォーン・ブースとは公衆電話ボックスのこと。

イタリア製のスーツに身を包み、腕には高級時計。ニューヨークの街を急ぎ足で歩きながらケータイ電話で誰かと連絡を取っている。そういう姿が、できる男いけてる男の見本なのか。

映画の冒頭、コリン・ファレルがそういう男として登場して映画が終わるまでずっと登場し続ける。コリン・ファレルは、ニューヨークの街中のとある電話ボックスで、目を付けているデビュー前の女優に口説きの電話を掛ける。妻帯者の彼は、ケータイに履歴が残ることを避けるために、いつもこの電話ボックスで女優に電話を掛けている。

その日も電話を終え受話器を置いたところ、その電話が鳴り出す。受話器を再び取ったコリン・ファレルは、架けてきた男から脅迫を受ける。
「電話を切るな、切ればお前を殺す」。

80分ほどの比較的短いこの作品は、この電話ボックスを中心とした映画と同時進行する短いスリラーである。NYの電話ボックス周辺の映像は、ロスの街中で10日間という非常識なほど短時間で撮影したという。普通、映画撮影は、映画のシーンを都合のいいようにランダムで撮影するのだが、この作品は映画のストーリー進行通りシーケンスに撮影したという。

コリン・ファレルのそのちゃらちゃらしたところが脅迫者には許せなかったようで、脅迫者とのやり取りのなかで、一見スマートなファレルは地金が出てきてボロボロにされてしまう。

やがて電話ボックスの周辺は、大変な騒ぎになる。

この流れを目にした観客は、「ちゃらちゃらしているから、こんなことになるんだ」と思うのだろうか。それとも「自分は、この脅されている主人公に近い存在だ」と思うのだろうか。それはどちらにしろ正しい考えだと思う。
ただし、この「脅迫者」は何を暗示しているのか、自分なりに考えてもらいたいとも思う。そして、精神的にさえそういう脅迫者の側に立たないようにしてもらいたいとも思う。
 
主人公以外のわき役も粒よりが揃っていて、短くてスリリングで考えさせられるところもたっぷりの、秀作映画である。