遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「帽子・夏」「群馬の人」/佐藤忠良

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8月7日、緑深き信楽の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」を後にして、琵琶湖湖畔の佐川美術館に足を運ぶ。
この美術館は、琵琶湖大橋を望む平らな土地に建てられていて、建物を囲む広大なプールに水が張られ、まさに琵琶湖を象徴するたたずまいになっている。しかも美しい。
 
佐川美術館は、平山郁夫佐藤忠良のコレクションが充実していて、加えていま安野光雅展が開催されていて、ご馳走てんこ盛り状態だった。
 
平山さんは被爆者だし、佐藤さんはシベリア抑留者だったし、ふたりとも平和を希求する作家で、作品がそれを物語っている。安野さんも含めて、3人とも作品以上に、人ととして非常に魅力的な人たちであった(安野さんは存命中)。
 
佐藤忠良とは、遠い昔に、日曜美術館か何かのTVで始めて出会った。女優佐藤オリヱの父親にして、絵本「おおきなかぶ」の画家にして、物腰や言葉が実にダンディで、巨匠なのに偉ぶっていなくて第一印象からして魅力的な人だった。
 
抑留されていたシベリアで、インテリや社会的名士ではない土臭い農夫や大工などに支えられて生還できたことが、彼のその後の人生や考え方に影響を与えたようであった。
そのことを物語るように、佐藤の作品は、洒脱でかっこいい麗しき女性像と同じくらい、市井の庶民の素朴な顔や姿のブロンズが多く残されている。
 
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                              「帽子・夏」(1972)
 
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                              「群馬の人」(1952)
 
佐藤のブロンズは、美術館のエントランスやプールなど屋外にも展示されて、私たちを温かく迎えてくれる。

安野光雅佐藤忠良の対談が本になった『若き芸術家たちへ - ねがいは「普通」』から、佐藤の芸術性や人間性を表した言葉が抜き書きされたサイトがあったので紹介する。
 
・人間の顔はその人の表札。そして、やはり、地位や名誉の有る無しに関わらず、中身のある心のいい人が、いい顔をしている。身近な人や行きずりの人の中にも本物がいる
・シベリアに抑留されていた三年間、男ばかりで過ごしていると、すべてのことを見せ合ってしまう。そのとき、日本人っていうのは、教養と肉体がバラバラになっていると思った。土方や野良仕事をしてきた人の方に、人間的に素晴らしい人がいた
・どんなに素晴らしいものでも、気品のないものはダメ。隣人への憐みがない芸術はウソ
・本物は違う。内にしっかり内蔵して、能の表現のように耐えて、それでも外へ、にじみ出ていく
・対象が本当の顔を見せてくれないのではなくて、こっちがつかみ出せないだけ。えぐり出そうとしても、えぐり出せないだけ
・切ない憧れが、今の若者に見えにくい。芸術の世界では、憧れがものを生み出す
・勲章は全部断った。勲章をもらった人のことを見ると、学生よりひどい作品がある。職人は死んだら作品しか残らない。「え!これが文化勲章の作品?」なんてことになったら、子孫だって恥ずかしい