遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

戦火の馬/スティーヴン・スピルバーグ

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戦火の馬 War Horse
監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:マイケル・モーパーゴ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
 
暑かった1週間の締めくくりは、涼しい池の上で釣り糸を垂らそうと軽装で釣りに出かけた。途中から篠突く雨になってしまい、Tシャツ姿では涼しすぎる大雨だった。素足で履いたスニーカーの中は、グチョグチョになった。このままでは、塹壕足になってしまいそうなので、早めに切り上げて、娘が借りてきた「戦火の馬」を鑑賞。
 
第一次世界大戦と言えば、西部戦線で繰り広げられた塹壕戦がイメージできる。延々と続く塹壕の中で、来る日も来る日も冷たい水に侵された足(塹壕足)を引きずって戦いを強いられたら、私なら白旗を翻して敵の捕虜になる。
 
そんな大戦を生きた1頭の馬の物語が「戦火の馬」。監督はS・スピルバーグ
 
英国の貧しい農夫がセリで手に入れた仔馬は、農耕馬ではなく美しいサラブレッドだった。しかし、サラブレッドでは、荒れた土地を耕して貧しさから農夫を救済してくれないはずだった。
しかし、農家の長男アルバートは、その馬をジョーイと名付け、農作業も乗馬も軽々とこなしてしまうスーパーパワーホースに育て上げた。しかし、嵐が農夫一家を襲撃し、農夫は戦争のために駆り出される馬として、アルバートが手塩にかけたジョーイを売ってしまった。
 
アルバートとジョーイの悲劇はそこから始まったのだが、あの大戦で悲劇的でなかった英国人はいるのだろうか。
この作品の底流に何らかの影響を与えているのかどうかは想像の外にあるが、「西部戦線異状なし」「ジョニーは戦場へ行った」「乱」などの映画タイトルやシーンが脳裏をかすめた。

 
ばかげた戦争を何度も繰り返す歴史に翻弄された多くの人と1頭の馬を描くことで、スピルバーグは自身が繰り返し自らの映画で示してきた希望を失わない人間の素晴らしさを描いている。
白旗を掲げた1兵士による塹壕をはさんだイギリス軍とドイツ軍の、ジョーイにまつわる一時休戦の短いシーン。これは、人間愛を描いたスピルバーグのユーモアと感動の一場面であった。こういうシーンを喜んであげると、監督冥利に尽きるというものである。
 
主人公のジョーイは、おそらくそのほとんどがCGなどによる特撮で描かれているのだろうが、その映像も驚異であった。余談ながら、栗毛で四白流星のジョーイは、私にあのテンポイントを思い出させてくれた。
 
 
《(「戦火の馬」 1982年にマイケル・モーパーゴが発表し、舞台版は第65回トニー賞で5部門に輝いたイギリスの小説を巨匠スティーヴン・スピルバーグが映画化。第1次世界大戦下を舞台に、主人公の少年アルバートとその愛馬ジョーイの掛け替えのないきずなの物語が展開する。主人公の少年を演じるのは、新星ジェレミー・アーヴァイン。共演は『ウォーター・ホース』の実力派女優エミリー・ワトソン。壮大かつ感動的な物語の行方に注目だ。》