何かで読んだ2件の書評がきっかけで買い求めた。
著者はインタービューをほぼフリーにしゃべらせたのだろう、多くの監督や俳優、女優が、彼らと深く接触のあった仲代の口からあらわれ出でて楽しい。それらのうち、有名で印象的なエピソードを一つご紹介。
「七人の侍」で、村人たちが町に出て自分たちの村を守ってくれる侍を探すシーンで、町中を歩くエキストラの侍役で、宇津井健や加藤武とともに、仲代達矢もただ歩くだけの侍役で出演した。
スクリーンに登場した3人は、顔を認められるものの、ほんの一瞬で通り過ぎてしまう。
スクリーンに登場した3人は、顔を認められるものの、ほんの一瞬で通り過ぎてしまう。
ところが、この撮影が大変だったようで、
ところが、撮影が始まると「何だ、その歩き方は!」と黒澤監督に怒鳴られまして。何度
やってもNGになるんです。そりゃそうですよね。新劇じゃそんなもの教えてくれません
し、そもそも着物を着たのも初めてですから。撮影が朝九時開始でそのシーンの撮影が終わ
ったのが午後の三時頃でした。その間、何百人もの役者やスタッフを待たせて、ひたすら私
が歩くシーンを何度も撮り直すんです。:
やってもNGになるんです。そりゃそうですよね。新劇じゃそんなもの教えてくれません
し、そもそも着物を着たのも初めてですから。撮影が朝九時開始でそのシーンの撮影が終わ
ったのが午後の三時頃でした。その間、何百人もの役者やスタッフを待たせて、ひたすら私
が歩くシーンを何度も撮り直すんです。:
このシーンは町の雑踏シーンで、確かに多くのエキストラや役者が出演するシーンで、そんななか、仲代は「俺は映画に向いていない、まして時代劇なんてダメだ」と思わせられる、屈辱的な一日だったと本書で回想している。
小林正樹、黒澤明、木下恵介、成瀬巳喜男、山本薩夫、市川崑、岡本喜八、勅使河原宏、五社秀雄、高峰秀子、原節子、京マチ子、新珠美千代、有馬稲子、岩下志麻、夏目雅子、宮沢りえ、三船敏郎、市川雷蔵、中村錦之助、丹波哲郎、勝新太郎、平幹二郎、宇津井健、田中邦衛、山崎努、原田良雄。
映画人というのは相当おかしな人たちの集団で、この人たちとの交友話が実に楽しい。そして何よりも、この人たちと撮った映画の話(タイトルは書けばきりがないので書かない)が、実に面白い。
映画人というのは相当おかしな人たちの集団で、この人たちとの交友話が実に楽しい。そして何よりも、この人たちと撮った映画の話(タイトルは書けばきりがないので書かない)が、実に面白い。
私は仲代を初めて意識したのは「ポポンS]のCMで、なんだか捉え所のないふにゃっとしたお兄さんだったが、子どもの頃にTVで初めて見た彼の映画は、「他人の顔」か「鍵」で、気味悪いぬめっとした印象だった。
私の子どもの頃に抱いていた仲代のイメージ「ヌメッ」としたところが(彼のあだ名は「モヤ」である)、どんな役柄もこなせる役者に変身できる幅の広さにつながっていたように、今になって思うのである。
同時に、彼なりの俳優としての努力の跡や、年長から可愛いがられ年下から慕われていたことも、本書からうかがい知れるのである。
同時に、彼なりの俳優としての努力の跡や、年長から可愛いがられ年下から慕われていたことも、本書からうかがい知れるのである。
キャリア60年の仲代達矢の出演作、まだ見ていないものを見る気にさせる1冊であった。