遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「震災ビッグデータ」で見える家族愛・人間愛

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東日本大震災で、人々がどのような行動をとったかが分かるデータが存在する。
そのことを「NHKスペシャル いのちの記録を未来へ~震災ビッグデータ」という番組で知った。

当時の、携帯電話やカーナビゲーションのGPSのデータやツイッターのつぶやき情報が残っている。
このデータで、被災直後の人々の移動データなどがトレースでき、
ツイッターのつぶやきから当時の被災者状況が分析できるのである。

たとえば、膨大なGPSデータで当時の道路の渋滞状況が、時制を伴って地図上に展開できるのである。
番組では、震災直後のグリッドロック(超渋滞)現象のようすが、CGで再現されていたが、
この各地の渋滞に遭遇して車ごと津波のの犠牲になった人たちが多くいたことが、手にとるようにわかった。

人々の行動で「なぜ?」と思うような軌跡だったのが、津波の到達しない安全圏から、
甚大な被害に遭った海岸地帯に多くの人たちが逆流しているデータだった。

多くは被害地から逃げる行動をとっているのに反して、それ以上の数の人たちが被害地に戻ってきている。
この、浸水域にわざわざ戻ってきた人の方が多いというケースは、24市町村に及ぶという。

これは「ピックアップ行動」と呼ばれるもので、家族や大事な人を助けに戻る行動だったのである。

番組で紹介された初老の男性は、津波で妻と長男と身障者の妹を失った。
彼の長男は、同居している身障者の叔母さんを助けようとして遠くの職場から自宅に戻り、
叔母とともに帰らぬ人となった。

自分のことしか考えられない私には、この若者の行動に胸を打たれた。
幼いころから同居していた体の不自由な叔母さん思いの、素晴らしい若者だったのだろうと思うと、
その命の重さに、彼の行動の崇高さに、涙が止まらなかった。

ビッグデータで得られた教訓、例えば道路渋滞は、今後の行動に生かすことができる。
車を使わない避難方法を何とか考えたり、道路整備をすればいいことである。

しかし、自分の命だけが助かることを考えた行動は皆で考えるべき深くて重い問題である。

同じく震災特集番組で、『マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学「これから復興の話をしよう」』でも、
地域の人たちを救助するために犠牲になった民生委員のことをテーマに、
「命をめぐる人命救助と犠牲」について、東北大学の大講堂で被災者たちが考え議論していた。

私だったら、「身障者の自分の妹はいいから おまえは逃げろ!」と長男に言うだろう。
私だったら、民生委員の妻に、「近所のばあちゃんはいいから、おまえは逃げろ!」と言うだろう。
そう言う私はきっと悪魔だと非難されるだろうが、
日ごろから、その時のための行動を考えておくことも、家族愛なのかもしれない。

震災ビッグデータ、それらは、量がビッグであることはもちろん、今後の役立ち度でもビッグで、
私たちの意識や行動を考えていくうえで実にビッグなデータなのである。