遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

白い雌ライオン/ヘニング・マンケル

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白い雌ライオン ヘニング・マンケル  柳沢由実子(訳) (創元推理文庫)

スウェーデンの田舎町で、不動産業者の女性が消えた。失踪か、事件か、事故か?ヴァランダー警部らは彼女の足取りを追い、最後に向かった売家へ急いだ。ところが近くで謎の空き家が爆発炎上、焼け跡から黒人の指と南アフリカ製の銃、ロシア製の通信装置が発見される。二つの事件の関連は?スウェーデンとロシア、南アフリカを結ぶ糸は?

ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダーシリーズの第3弾「白い雌ライオン」。
またまた国際的な長編小説となった第3弾の舞台は、刑事ヴァランダーの地元スウェーデンと、
アパルトヘイトがようやく終焉に向かおうとしている90年代初頭の南アフリカである。

南アフリカには、イギリス人とアフリカ人の間に強烈な人種差別アパルトヘイトが横たわっているのだが、
イギリス人より先に南アに入植したオランダからやってきたボーア人とイギリス人の間には、
すさまじい主導権争いが繰り広げられてきた歴史がある。

この小説では、アパルトヘイトを廃止して政権をマンデラに譲った、
時の大統領でボーア人のデクラークが実名で登場し重要な役割を担う。

南アの秘密情報機関の高官で、ボーア人で構成された秘密結社の中核をなす男が、
マンデラを暗殺するために黒人のスナイパーを差し向ける。
黒人の初代大統領候補のマンデラを暗殺するのに容易な黒人を利用するところが狡猾で、
自分たちの象徴を暗殺され暴徒化した黒人たちを利用して、南アを混乱させようという目論見なのである。

そのボーア人高官が差し向けた狙撃者の教育係を担当するのが、ロシア人の元KGBの男。
このロシア人が抜け目のない男で、スウェーデンを拠点に暗殺の時機が到来するのじっと待っていた。

デクラーク大統領の優秀な部下の若きボーア人検事は、マンデラの暗殺を阻止するために、
ボーア人の高官の周辺を捜索し、南アを混乱させようとする計画の中核に迫っていく。
この検事は、妻とアニマルパークの川辺で遭遇した畏怖すべき「白い雌ライオン」と、
自分たち白いアフリカ人を、象徴的に重ね合わせる。

スウェーデンの刑事ヴァランダーは、不動産屋のおかみさんの殺害事件の捜査をしていくうちに、
南アの黒人とロシアの元KGB男たちとの対立に巻き込まれ、深みにはまってしまう。

マンデラ暗殺とその暗殺阻止のために、南アとスウェーデンで並行して物語が進行していく。
全知全能を傾けて体を張って任務を遂行しようとする善悪入り乱れた男たちの仕事ぶりが、
マンケルの落ち着いた筆致で、文庫にして700ページを超えて、私たちを楽しませてくれる。