遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

フランキー・マシーンの冬/ドン・ウィンズロウ

イメージ 1

フランキー・マシーンの冬 (上・下)ドン・ウィンズロウ  東江一紀 (訳) (角川文庫)


サンディエゴの埠頭で店を出す、どこにでもいそうな初老(62歳)の釣り餌屋のおやじ。
名をフランク・マシアーノという。

もうこの名前だけで、ただのおやじでない匂いがぷんぷんとする。
イタリア系の名前だけで、「ひょっとしてマフィア?」と思うのは偏見か。
オペラ歌手を連想してもいいだろうに。

この、ドン・ウィンズロウノワール小説に登場するイタリア系のおやじは、
マフィアを連想しても間違いはない。
フランクは、かつては「凄腕フランキー・マシーン」と呼ばれた、
とても仕事のできるマフィアなのであった。

フランク・マシアーノは、余生を釣り餌屋や鮮魚商を営む幸せな男。
「紳士の時間と」呼ばれるいい波が現れるときは、初老の今でもサーフィンを楽しむ。
もうすぐ定年を迎える何十年来の波乗り仲間のFBIの捜査官デイヴ・ハンセンと、
「紳士の時間」を楽しく共有する。

そんなフランクに、「厳しい冬」が到来したというこの物語。
62歳になってもそんなに仕事ができるかという、
いきなり凄いフランクに出会ってから、アドレナリンが私の体内を駆け巡る。

厳しい冬を彷徨するうちに、今目の前に起きている厳しい現実と、
それが今なぜ自分に科せられているのか、自分の過去を洗い出す。
波乗り仲間のFBIの捜査官デイヴ・ハンセンを巻き込んで、
現在と過去の時制が入り混じって、「フランクの生涯」と「フランクの冬」が描かれる。

仕事帰りに、急遽歯医者によらなければならないはめになった2012年6月20日の私。
待合室で待たされた30分、最後まで「フランキー・マシーンの冬」を読みきってしまった。
待たされても何の苦痛も感じない、至福の30分だった。

いい書き手が、悪徳者たちをバックにマフィアを描けば、
こんなにもスマートで楽しいものが書けるのだという、お手本のような物語である。

「終章」までしっかりしっかり読んでいただきたい。