遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

イッツ・オンリー・トーク/絲山秋子

イメージ 1

イッツ・オンリー・トーク   絲山秋子 (文春文庫)

引き続き、絲山秋子を読む。

作家は2001年に勤めていた会社を辞め、2003年の処女作「イッツ・オンリー・トーク」で、
第96回文學界新人賞を受賞。第129回芥川賞候補にもなっている。

芥川賞選考委員石原慎太郎には、この絲山ワールドは分からなかったようだが、
高樹のぶ子山田詠美村上龍黒井千次池澤夏樹らには一様に認められている。

元新聞記者で、ローマにも赴任していたこともある女主人公優子。
そううつ病をわずらい退職して今は画業でなりわいを立てている。
絵を売ってなかなか食っていけないと思うのだが、
とにかく、主人公の境遇は、絲山秋子とほぼ同じような状況である。

優子は身持ちが軽くって、同級生でEDの区会議員、福岡からやってきた居候のいとこ、
痴漢ごっこをしてくれる優しい妻子あり男、うつ病のヤクザなどと、関係を持つ。

男たちと関係を持つと言っても、ED議員やいとこが相手だからというのもあるのだが、
痴漢男以外とはほぼ精神的な関係に終始している。
ただ、彼らとの会話は何ともまったりと好感が持て、これこそ絲山ワールドの真骨頂である。

「あの薬、ばりばり効いたよ」
「あれ、乗り物酔いの薬」
「え、睡眠薬じゃないの?」
「眠くなる成分は入ってるよ」
「なんだ、優子ちゃんが飲んでる薬かと思ったのに」
「あんなもんあんたが飲んだら明日まで寝てるよ」
「でもほんとは、『眠れるお薬』って言われて胃薬もらってもよく眠れたんだろうな」
「そうそう、そういうのをプラセボ効果といいます。偽薬(ぎやく)のことね」

違う男たちとムダ話で時間をつぶして、時々スキンシップもありで、
優子の時間はゆっくり流れていく。
しあわせはもうすぐ目の前に現れてくるだろう。


併録作品が「第七障害」。

馬術競技で転倒して、パートナーの馬を失った順子。
こちらの作品も、どん底から立ち直っていく主人公と、
彼女を支える男女が描かれている。