遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ミレニアム2/スティーグ・ラーソン

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ミレニアム2 火と戯れる女 上・下 スティーグ・ラーソン  (ハヤカワミステリ文庫)


今世紀最大のミステリ三部作、激動の第二部に突入! 
女性調査員リスベットにたたきのめされた後見人のビュルマンは復讐を誓い、彼女を憎む人物に連絡を取る。そして彼女を拉致する計画が動き始めた。その頃ミカエルらはジャーナリストのダグと恋人ミアが進める人身売買と強制売春の調査をもとに、『ミレニアム』の特集号と書籍の刊行を決定する。ダグの調査では背後にザラという謎の人物がいるようだ。リスベットも独自にザラを追うが、彼女の拉致を図る者たちに襲撃された!

「ミレニアム1」の記事を書いたのが3月10日。

今日は3月20日の春のお彼岸、10日足らずで「ミレニアム2」を読了した。

読むのが遅い私にしては、最速に近いスピードで読破した。

深夜トイレに起きて、次の日が休みなら、枕元の本書のページを開いて読みふけっていた。

まだ釣りに行くには体調が不完全で、庭の木のせん定や施肥もしながら、

読書三昧の日々、楽しい毎日だった。


さて、本作も、経済誌「ミレニアム」の編集室を取り巻く人たちに事件が降りかかる。

ミレニアムの共同経営者にして発行責任者のミカエルが、探偵のように事件の調査を始める。

当然に、有能な調査員としてミカエルは描かれている。

ペースはゆっくりだが、深い読みとひらめきで前進していくミカエルの捜査課程は、

コリン・デクスターのモース警部のようである、まるで警察小説の主人公のようである。


「ミレニアム1」から続くもうひとりの主人公リスベット・サランデルは、

後見人の弁護士ビュルマンから復讐の手が伸び、それをきっかけに窮地に立たされることになる。

相変わらず、リスベットが中心となって描かれる場面が、すこぶる面白い。

客観的に見れば「窮地」に立たされているリスベットだが、彼女自身は常に冷静で、

ファンタジーのようなハードボイルドなあり得ない展開に、私たちは興奮するはめになる。

いまは、7万クローネ(1クローネ≒10~12円)のエスプレッソ・マシンを備えた、

2千5百万クローネのアパートに住んでいるリスベットの、衝撃の過去が明らかになるのだが、

下巻にいたるまでの彼女の登場場面が少なくて、焦(じ)らされる思いであった。

しかし、焦らされた分、後で幸福になる度合いが膨れるのがうれしい。


自由でこだわりのない文化を持ち、男女差別や貧富の差や社会的地位の差も少なく、

下劣な捏造記事で読者を増やそうとするタブロイド紙など存在するはずがなく、

ドラッグや覚せい剤や銃器と縁のない成熟した国スウェーデン、と思っていたのは私だけで、

人名や地名や為替レートが出てこなければ、アメリカや南米や南アフリカの出来事と錯覚してしまう。

そんなスリリングな国スウェーデンで、「火と戯れる女」というタイトルが示す意味が、

下巻でようやく明らかになるのである。


本作では、ほぼ最後まで接触のない主人公ふたりミカエルとリスベット。

そのふたりの精神的なつながりを照らし出す流れと、

それぞれが、悪党たちの巻き起こす事件の真相を追求する流れと、

その静と動が巧くミックスされたアクションドラマに、多くの人たちは魅了されたに違いない。