遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

本郷森川町/木村伊兵衛

イメージ 1
  木村伊兵衛  「本郷 森川町」 1953年(昭和28年)
 
木村伊兵衛写真賞」、1975年に朝日新聞によって創設された、写真界の芥川賞的存在である。
普通は「木村伊兵衛賞」で通っている。
私が、ニコンの一眼レフを買って写真を始めた頃、
藤原新也(受賞年1977年)石内都(1978)岩合光昭(1979)などが相次いで受賞していた。
星野道夫は1989年に当然に一連のアラスカの写真で受賞している。
私とほぼ同年の里山の写真家今森光彦は、40歳で受賞している。
今森は、写真界の直木賞土門拳賞」も、55歳で受賞している。
 
土門拳の「江東のこども」の頃、
山の手の東京を木村が撮った1枚が、「本郷森川町」である、1953年のことである。
 
街角の三叉路にいろんなものが邪魔をし合わずにバランスよく配置されていて、
まるで演出をしたような見事な一瞬を切り取っている。
 
モダンな交番前の若いおまわりさんと、職人風の二人。
その方向を見やる帽子と外套姿の紳士と、ぐいぐい歩く子どもをおんぶしたエプロン姿の婦人。
このご婦人がなんとも力強い存在感を示している。
手前の子どもたちは、私の昔の写真のごとき風体で、
右の門構えも立派な大きな西洋館は、看板から歯科医院と読める。
画面奥へと続く小路も実にいい風情で、写真に奥行きを持たせている。
 
賞に名を残すに相応しい作家の1枚である。