作者グレッグ・ルッカは、前作から「哀国者」まで7年の期間をかけている。
幸い私は、2001年刊行の前作を先だって読み終えて、
息も継がずに2008年発刊のこの作品を読んだ。
読者は7年も待てないのに、作者も作品も忘れ去られてしまうのに(断言できる)、
ずいぶんのんびりした作家なのに驚く。
ともあれ、主人公のアティカス(ボディ・ガード)と、
その相棒で恋人のドラマことアリーナ(プロの暗殺者)は、前作以上にスリリングな世界に突入していく。
今作は、冒頭からクライマックスが用意されている。
一乗寺下り松での武蔵と吉岡一門との決闘のようなクライマックスが、いきなり用意されている。
前作でただのボディガードから、肉体的にも精神的にも改造されたアティカス。
ヨガやバレエとおびただしい種類のサプリメントで、思い通りに動ける身体と強い心を造り上げた。
自分の警護の対象者であるアリーナに、改造されるところが面白い構成なのだが、
レイモンド・チャンドラーにも改造されたかのように、ハード・ボイルド・テイストの男になってしまう。
この最強のカップルは、世界を股にかけて、潜伏して戦術を練り、作戦通り戦いまくって逃げまくる。
まるで、ボニーとクライド(「俺たちに明日はない」)だなと思っていると、
アリーナは自分たちのことを、ボニーとクライドみたいだと認める。
ただ、ボニーとクライドと決定的に違うところは、徹底したストイシズムを持っていること。
アティカスは、もちろんアリーナも、アルコールもカフェインも断って、
徹底的に強靭でしなやかなこころとからだを維持して、巨悪に挑んでいく。
作戦遂行のためには、二人は離ればなれになって耐え忍んで好機を待てるのである。
その精神性は、宮本武蔵と共通する。
また、一箇所に留まらないところが、放浪者(バガボンド)のようでもある。
またまた、朝の電車でも読まずにいられないほど楽しませてもらった。
ランチにもトイレにも持参、帰りの電車ではもちろん、夜中に目が覚めても手に取ってしまった。
アティカスとアリーナはどこへ行こうとするのだろうか、幸せは待っているのだろうか。
次の作品「回帰者」でシリーズが完結するらしくて実に残念なのだが、
またすぐ読み始めることとする。