遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

逸脱者/グレッグ・ルッカ

イメージ 1

逸脱者(上・下) グレッグ・ルッカ   飯干京子 (訳) (講談社文庫)


「守護者」「奪回者」「暗殺者」「耽溺者」と続いてきた、

ボディーガード(パーソナル・セキュリティ・エージェント)アティカス・コディアック・シリーズ、

第5弾「逸脱者」のご紹介。


「アティカス! 荷物を持ちなさいってば!」

と金切り声を上げる警護していた22歳の超売れっ子女優の願いを断固受け入れず、

アティカスは、1日2千ドルの契約を破棄されたばかりであった。

今回は、この飛び切り美しい女優を取り巻く物語が、上下巻続くのかと思いきや、

上巻の18ページ目でその思いは断たれてしまった。


アティカスとその仲間4人が共同出資して設立した、要人などの身辺警備を専門とする会社は、

財政状態が火の車で空中分解寸前である。

このままでは仕事が向こうから歩いてくることはないと、共同経営者と会社の先行きを相談している場に、

アティカスの旧知の男から、要人警備を依頼したいとの1本の電話が入る。

その警護対象の要人というのが、英米両国で広くその名を知られる、

英国ロイヤル・ファミーリーの一員の公爵令嬢で、23歳の子どもの人権唱道者である女性だった。

彼女が英国を離れて、アメリカで移動する際の警護を、アティカス一家4人が引き受け、

その仕事は、マスコミで取り上げられるほどのトラブルに見舞われたことにより、

彼ら4人は、一躍名声を博することとなり、仕事が殺到するのだった。


しかし、いいことはつかの間で、あろうことか令嬢を誘拐されてしまう。

令嬢を取り巻く物語が続いていくのかと思いきや、ここでまた違った展開になっていく。

誘拐犯は、このシリーズにかつて登場したドラマという名の、プロの女暗殺者で、

令嬢を釈放する交換条件は、アティカスとの身柄交換であった。


このあたりから下巻になり、

暗殺者ドラマのねらいは、アティカスに自分の身辺警護をしてほしいというものだった。

アティカスから令嬢を無傷で誘拐するほど掛け値なしに有能な暗殺者ドラマの依頼を受け、

アティカスは数百万ドルの高額な報酬を約束され、まずは、心の鍛錬に挑むことになる。


ドラマの居所を突き止められるまでに、おそらく数ヵ月を要する。

その数ヵ月を使って、彼女と同じ隠れ家に居て警護をしながら、ドラマの強さに近づくために、

ドラマの命を狙う別の暗殺者を待ちながら、アティカスは心身を鍛え上げていくのである。


サイボーグのような女に、彼女からの依頼を通じて、心を持つサイボーグに自分を仕立て上げ、

「その時」を待つアティカスなのであった。


久しぶりに読んだこのシリーズ、やはり私の肌と合う。

上下巻、遅読の私だがあっという間に読み終えた、朝の電車の中でも読んでいた。

ああ、物語を読み耽(ふけ)りその世界に浸(ひた)る幸せ。


アティカス・コディアックは、これからどこへ行こうとしているのだろうか。

続く「哀国者」を間髪を入れずに読み始めた