遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

大統領の陰謀/アラン・J・パクラ

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大統領の陰謀 All the President's Men

監督
アラン・J・パクラ (「ソフィの選択」「デビル」)
脚本
ウィリアム・ゴールドマン(「明日に向かって撃て!」「マラソンマン」)
出演者
ダスティン・ホフマン
ロバート・レッドフォード
ジェイソン・ロバーズ

日本公開  1976年8月
上映時間 138分

同年のアカデミー賞にて
助演男優賞(ジェイソン・ロバーズ)、脚色賞、美術賞、録音賞の4部門を受賞


1972年、ワシントンのウォーターゲートビルの民主党本部に、

5人の男たちが侵入した事件。(「フォレストガンプ」のあのシーンを思い出す。)

5人の男たちは、単なる窃盗が目的だったのだろうか?

ワシントン・ポストの若き新聞記者ロバート・レッドフォード演ずるボブ・ウッドワード(29)と、

ダスティン・ホフマン扮するカール・バーンスタイン(28)は、真相を追い始めた。


ウォーターゲート事件の結末は、どなたもご存知の通りである。

映画(事件)は、こそ泥だと思われた5人の男たちの経歴や証言により、

ニクソン大統領再選委員会による、民主党本部盗聴事件に発展するという、

作り話でも考えられないような展開を見せる。


その「展開」にまで、ぐいぐい切り込んでいく主人公二人の調査の一部始終をドラマ化したのが、

この「大統領の陰謀」である。

携帯電話もパソコンもないアナログ時代に、

究極のアナログ仕事を成し遂げた若き記者のドキュメンタリー・ドラマ。

ワシントン・ポスト紙以外のメディアは、

見えない圧力や食えない記事との判断から食指を動かさない。

事件の全貌や結末を後付で知ってしまうと、主だったメディアの無反応に驚くしかないが、

そのときの感覚はそういうことだったのだろうし、

ワシントンポストの二人が動かなかったら、単なるこそ泥事件で終わっていたのかもしれない。

なので、映画作品とはいえ、主人公二人の手足を動かし、神経を研ぎ澄まし、

事件の核心に突き進んでいく姿が実に興味深い。

言論の自由を守るための二人(とその上司たち)の勇気ある行動に、アドレナリンが分泌される。

しかも、その二人を、「スティング」「追憶」を撮り終えて、

押しも押されせぬスターに登りつめたレッドフォードと、

1969年の「卒業」以降、立て続けに問題作に主演して、

ヒットを連発中のスーパースターダスティン・ホフマンが、

実在の記者二人の「取材ノート」を丹念にトレースしていて、実にいい仕事を残してくれている。


カメラは躍動感あふれた動きで、新聞社のオフィス内を流れるように移動したかと思えば、

定位置に据え置かれて長回しされたりして、主人公二人とワシントンの街を縦横無尽に追いかける。

事件解決のもう一人の影の立役者「ディープ・スロート」との密会場面など、

光と影をうまく利用した「第三の男」のウィーンの下水道シーンを彷彿とさせ、ミステリアスだ。

事件の光と影は、そのまま作品に投影され、カメラはその機能を十分に発揮されていて見事なものである。


借りてきたDVDには、映像特典としてレッドフォードの解説編が用意されていて、

シーンごとに撮影エピソードやカメラやライティングの話や思い入れがふんだんに語られている。

それを観はじめたら面白くてやめられなくなり、

私は全編を2回も、つまり本編と解説編の両方を通しで2回観てしまった!!


レッドフォードは、ウォーターゲート事件が核心に到達する前に、

映画権を獲得するために、主人公の一人ボブ・ウッドワード記者と接触を試みている。

この映画が完成する4年前のことである。

この作品の成功は、その接触から始まったといえる。

ウォーターゲート事件のことを、知らない人も、よく知っている人も、忘れかけていた人も、

ぜひご覧になっていただきたい。