遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

自己啓発の名著30/三輪裕範

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自己啓発の名著30   三輪 裕範  (ちくま新書)



週刊朝日の書評欄でレギュラー評者の中沢孝夫が推薦の新書、

自己啓発の名著30」。

本来は「自己啓発」という言葉でスルーする私だが、

「『この夏の一冊』を手に入れるために」中沢はこの新書を読めという。

私は、30冊の中から「この夏の一冊」を見つける前に、

この三輪裕範著の「自己啓発の名著30」こそが、私にとって「この夏の一冊」となった。


では、その名著30冊を目次に沿って紹介してみよう。

第1章 自伝

1 ベンジャミン・フランクリン 「フランクリン自伝」(1791年)― 余裕をもちながらも人生を真剣に生きる

2 エドワード・ギボン「ギボン自伝」(1796年)― 独学で畢生の歴史的大著を書き上げる

3 福沢諭吉福翁自伝」(1899年)― 天性の楽天性と自由な精神が新時代を切り開く

4 勝海舟「氷川清話」(1898年)― 下情に通じ市井の人を大切にする

5 石光正人(編著)「ある明治人の記録」(1971年)― 血を吐く思いで書いた渾身の書(※柴五郎の半生)

6 アンドリュー・カーネギーカーネギー自伝」(1920年)― 常に積極的に学ぶ姿勢が大成功をもたらす

7 高橋是清高橋是清自伝」(1936年)― 信じられないほど面白い仰天自伝

第2章 人間論

8 ニッコロ・マキアヴェッリ君主論」(1513年頃)― 善と悪をめぐるどこまでも深い洞察力

9 ラ・ロシュフコーラ・ロシュフコー箴言集」(1664年)― 強い毒気によって人間性の本質を鋭くえぐる

10 フランシス・ベーコン「ベーコン随想集」(1597年)― 適度に過激で適度に辛辣な人間観察の書

11 ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」(1947年)― 言語を絶する感動を与え続けた名著

12 渡辺一夫「人間模索」(1953年)― 人間が人間であるために必要なのは反省である

第3章 生き方論

13 セネカ「人生の短さについて」(1世紀中頃)― 自らの可死性を忘れた愚かな人間たち

14 マルクス・アウレーリウス「自省録」(166~176年頃)― 生き方について考え抜いた哲人ローマ皇帝

15 洪自誠「菜根譚」(成立年未詳)― 中国古典の伝統を受け継いだ究極のバランス感覚

16 林語堂「人生をいかに生きるか」(1937年)― 悠久の中国思想を体現した閑適生活哲学

17 トマス・ア・ケンピス「キリストにならいて」(1441年頃)― 世界の人々が「心の平安」を見出した書

18 サミュエル・スマイルズ「自助論」(1858年)― 明治日本を創り上げた最高の自己啓発書

19 新渡戸稲造「自警論」(1916年)― 人生は無頓着に生きるに限る

20 幸田露伴「努力論」(1912年)― 社会の幸福量を増やすのが真の努力である

21 アンドレ・モーロワ「人生をよりよく生きる技術」(1939年)― フランス最高の良識人による最も健全確実な生き方

22 デール・カーネギー「人を動かす」(1936年)― 人は誰でも「自己の重要度」を感じたい

23 森信三「修身教授録」(1940年)― この世に人間として生を受けたことに心から感謝する

第4章 知的生活論

24 ジェームズ・ボズウェル「サミュエル・ジョンソン伝」(1791年)― 言葉の魔術師が示した天賦の知性と会話の才

25 ショウペンハウエル「読書について」(1851年)― こんな小著でこんなに濃密な読書論ができるとは! 

26 小泉信三「読書論」(1950年)― 地に足のついた日本人による読書論の白眉

27 三木清「読書と人生」(1942年)― 読書の本質を追い求めた快著

28 梅棹忠夫「知的生産の技術」(1969年)― すべての「知的生産」議論はこの一冊から始まった

29 P・G・ハマトン「知的生活」(1873年)― 知的生活とは自分にとってのライフスタイルの選択の問題である

30 ジョージ・ギッシング「ヘンリ・ライクロフトの私記」(1903年)― ここに心豊かで充実した究極の知的生活がある


恥ずかしながら、私が読んだのは28の梅棹忠夫「知的生産の技術」のみ。
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/63679864.html

著者の三輪は、自ら厳選した30冊について、

よく読みこんでいるのだろう、10頁足らずのスペースに実にていねいにまとめてくれていて、

どれもこれも読んでみたくなる紹介の仕方である。

読んでみたいと思わせるのは、三輪の紹介によって、

それぞれが名著として光を放つ力を持っているからでもあろう。


三輪は、各項の最後に、これらの名著の出版社まで紹介している。

いくつかをAmazonで捜してみたが、どれも読者の賛辞としてカスタマーレビューがついていて、

読む人は読んでいるのだなと、感心してしまった。


著者が無人島にもって行きたい2冊が、23森信三の「「修身教授録」(1940年)と、

30の「ヘンリ・ライクロフトの私記」(1903年)という。


私はブログタイトルの下の「一言メッセージ」を、

16林語堂「人生をいかに生きるか」(1937年)からのフレーズを借りてきている。

また、11ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」(1947年)は、

ネットではなく、書店で捜して購入して読みたいと思っている。


30人の巨人たちは共通して、人間好きで努力家で楽天的でしなやかな感性の持ち主である。

本書は、30人の巨人たちが、あるべき人間の姿で紹介されていて、

それぞれと、軽く挨拶を交わした程度の接し方で、感慨深い出会いになった。

そこが、この本書と、単なる「自己啓発」のハウツー本との大きな違いなのである。

若い人たちに、この本を通じて稀代の巨人たちと出会い、

彼ら(の誰か)とじっくり触れ合うことにより、

しなやかな感性を身につけ、より豊かな人生を創り出していただきたいと願う。