わらの犬 Straw Dogs
60年代後半から5年の間に、代表作を4作も世に送り出した。
タイトルは、『天と地は無常であり、無数の生き物をわらの犬として扱う。賢人は無情であり、
わらの犬は、“護身のために焼く、取るに足らない物”という意味、だという。
アメリカから、妻の故郷であるイギリスの田園地帯にやってきた数学者が、
ダスティン・ホフマン扮する主人公。
その妻役が、スーザン・ジョージで、この数学者夫婦は、
妻の故郷で大変な目に遭う。
イギリスなのに、「OK牧場の決闘」「荒野の決闘」でおなじみの、
クラントン一家みたいな狼藉者たちがうようよいて、
よりによって、数学者夫婦は、ガレージの修理のためにその連中を雇っているという設定。
セクシーで地元では顔なじみの妻と、非力で数式にしか興味のないインテリ学者の夫。
狼藉者たちがこの夫婦にちょっかいを出さないわけがない、という単純なプロットで、
ストーリーは構成されている。
登場人物で普通の人間は、ダスティンが演じる主人公だけで、
その他の登場人物は、いかにもとって付けたような性格付けで、
今回ほぼ40年ぶりに鑑賞して、奥行きのなさが意外なほどだった。
(「わらの犬」とは、取るに足らない人たちのことなのだろうか?)
時代が異なるので、比較するのはフェアではないが、
バイオレンスの巨匠の作品なのに、なんだか薄っぺらい。
演出も脚本も私には薄っぺらく感じたのだが、
アメリカから静かなイギリスの田舎に逃避してきた弱きインテリを、
若きダスティン・ホフマンが、難なく演じていてお見事である。
その弱きインテリが、ワイアット・アープみたいな知的マッチョに豹変する演技も、
拍手喝采もの。
「わらの犬」とは、守るべきプライドなんて取るに足らないもの、ということなのだろうか?
私のいちばんのお気に入りは、
ご覧の割れためがねをかけた主人公の画像である。
映画のシーンはほとんど忘れてしまっていたが、
知性のシンボルとでもいうべきメガネを傷つけられたダスティンの大写し、
当時のこのポスターは、ずっと記憶にあるのである。