NHK広島放送局の2009年制作のTVドラマ「火の魚」。
室生犀星の原作のドラマ化で、広島に住む作家と、
東京からその作家のもとに通う、担当編集者の心の葛藤と交流を描いた作品。
わがままな作家は、無理難題を若き編集者に押し付けるのだが、
編集者もだてに東京から通っているだけではないと、
決して屈することなく、作家のわがままを受け止める。
その両者の生きる姿は、美しいカメラワークと、端正な脚本と、
お仕着せがましくない上品な演出と、研ぎ澄まされているのに自然な演技で、
素晴らしいドラマに仕立てあげられた。
はじめて見たときは、偶然に途中からだったのだが、
広島にある海に面した素敵な書斎に居る老作家(原田芳雄)のシーンを見た一瞬に、
この作品に引き込まれてしまった。
どの一シーンを取り上げても力があり、鑑賞に堪えられる作品であった。
今日知ったのだが、このとき原田芳雄は、
大腸がんの手術から復帰していたようであった。
彼女はどんな役をやってもいつも違うように見えて、
この「火の魚」の尾野も、老作家ならずとも心惹かれる女性を見事に演じていた。
NHKは全視聴者のために、「火の魚」の放送を敢然と決断すべきであろう。
死を悼むのに赤いバラでは不謹慎なのだろうが、
原田芳雄には、彼が入院中の編集者(尾野)に届けたのと同じくらい大きな、
両手いっぱいのバラの花束を捧げて哀悼の意を表したい。
私の最後の原田芳雄は、夏物語な「火の魚」なのであった。
合掌。
■「火の魚」受賞歴