遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ドラマ「火の魚」/原田芳雄・尾野真千子

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NHK広島放送局の2009年制作のTVドラマ「火の魚」。

室生犀星の原作のドラマ化で、広島に住む作家と、

東京からその作家のもとに通う、担当編集者の心の葛藤と交流を描いた作品。

老作家を演じたのが原田芳雄、若き編集者役を尾野真千子が演じた。


わがままな作家は、無理難題を若き編集者に押し付けるのだが、

編集者もだてに東京から通っているだけではないと、

決して屈することなく、作家のわがままを受け止める。


その両者の生きる姿は、美しいカメラワークと、端正な脚本と、

お仕着せがましくない上品な演出と、研ぎ澄まされているのに自然な演技で、

素晴らしいドラマに仕立てあげられた。

はじめて見たときは、偶然に途中からだったのだが、

広島にある海に面した素敵な書斎に居る老作家(原田芳雄)のシーンを見た一瞬に、

この作品に引き込まれてしまった。

どの一シーンを取り上げても力があり、鑑賞に堪えられる作品であった。


今日知ったのだが、このとき原田芳雄は、

大腸がんの手術から復帰していたようであった。

秋からの朝ドラ「カーネーション」のヒロイン役の尾野真千子

彼女はどんな役をやってもいつも違うように見えて、

この「火の魚」の尾野も、老作家ならずとも心惹かれる女性を見事に演じていた。


原田芳雄の追悼のために、尾野真千子主演の朝ドラの宣伝のために、

NHKは全視聴者のために、「火の魚」の放送を敢然と決断すべきであろう。


死を悼むのに赤いバラでは不謹慎なのだろうが、

原田芳雄には、彼が入院中の編集者(尾野)に届けたのと同じくらい大きな、

両手いっぱいのバラの花束を捧げて哀悼の意を表したい。

私の最後の原田芳雄は、夏物語な「火の魚」なのであった。

合掌。


■「火の魚」受賞歴

平成21年度(第64回)文化庁芸術祭大賞
第36回放送文化基金賞優秀賞、演技賞(尾野真千子)、脚本賞渡辺あや)、演出賞(黒崎博)
平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(演出:黒崎博)
ヒューゴ・テレビ賞奨励賞
ギャラクシー賞2010年3月度月間賞・第47回奨励賞
第50回モンテカルロ・テレビ祭・ゴールドニンフ賞(テレビ映画部門)
第62回イタリア賞・単発ドラマ部門・最優秀賞(イタリア賞)