遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

スタディ・イン・ブラウン/クリフォード・ブラウン

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大学に入ってからジャズを始めた長女、

長女の担当パートは、ビッグバンドのアルト・サックスで、

入部してはじめてその楽器に触れたという、かなり貧弱なキャリア。

その最後の学園祭でのジャズ部の公演に、家族で視聴に出かける。

長女が自宅で練習している姿は一度も見たことがないので、

部活動だけの練習で人様の前で演奏できるようになるのだから、

授業やバイトや就活の合間に、部活もよく頑張ったのではないだろうか。


今日ご紹介の1枚は「スタディ・イン・ブラウン」、


代表的なアルバムなのである。

私は、ジャズを聴くようになったのは、

マイルス・デイビスの1973年の日本公演をテレビで見てからのことで、

19歳のことだった。

今思えばその頃は、もうマイルスは全盛期を過ぎていて、

私のジャズの嗜好は、1950年代まで時代を逆行していった。


そんななか、スイングジャーナルのゴールドディスクとして、

この、クリフォード・ブラウンの「スタディ・イン・ブラウン」が発売され、

学生だった私は、このアルバムを手に入れた。

■パーソネル
クリフォード・ブラウン(tp)
マックス・ローチ(ds)
ハロルド・ランド(ts)
ジョージ・モロウ(b)
リッチー・パウエル(p)

■収録曲
1. チェロキー
2. ジャッキー
3. スウィンギン
4. ランズ・エンド
5. ジョージズ・ジレンマ
6. サンデュ
7. ガーキン・フォー・パーキン
8. イフ・アイ・ラヴ・アゲイン
9. A列車で行こう

1955年2月23-25日録音

ブラウンのトランペットは、マイルスのそれとは対照的な躍動感があり、

ディジー・ガレスビーのようなパワープレイでもなく、

コロコロ転がるように饒舌なのに、実に上品な演奏を聴かせてくれる。

また、ゆっくりテンポのメロディーは、実によく歌うトランペットで、

いい意味で言うのだが、幼さの微塵もない洗練された演奏である。

さらに、テナーサックスのハロルド・ランドと、

ブラウンのユニゾン(同じメロディーを演奏)は、

超高速なのにもかかわらず、完璧にシンクロしていて、

DNAが別々の人間のなせる業とは到底思えない神業なのである。

きっと、練習すれば出来る、といった演奏ではないのだろう、

ガレスピーチャーリー・パーカー(as)のユニゾンと並び、ジャズ史上双璧の演奏である。


一方、マックス・ローチ(ds)とジョージ・モロウ(b)とリッチー・パウエル(p)の

3人が造り出す、パルス信号のようなリズム演奏に驚愕されたい。

リズムセクションとは、こういうことを言うのである。

もちろん彼ら3人ののソロ部分も、しっかり挿入されている。


ハード・バップ (Hard bop)という、1950年代に登場したジャズ演奏のスタイルがあるが、

言葉で説明するよりも、このアルバムを聴けば、ああなるほどと理解できる演奏法で、

このスタイルは、現代でもすたれていない演奏法である。


クリフォード・ブラウンは、この録音の翌年1956年に交通事故で夭逝した、

まだ26歳の若さであった。

しかし、彼の音造りは、亡くなる1年前にすでに完成の域にあったのかもしれない、

そうでも言わなければ浮かばれない、あまりにも早過ぎた死であった。
 

これは、敢えて長女には聴かせていないアルバムのひとつである、

部活がひと段落着けば、貸してやろうと思っている。