ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番Op.59-1『ラズモフスキー第1番』
弦楽四重奏曲第14番ハ短調Op.131
演奏:アマデウス弦楽四重奏団
録音:1959年5月19-27日(第7番)、1963年6月10-13日(第14番)、ハノーファー
弦楽四重奏曲第14番ハ短調Op.131
演奏:アマデウス弦楽四重奏団
録音:1959年5月19-27日(第7番)、1963年6月10-13日(第14番)、ハノーファー
弦楽四重奏曲第7番、いわゆる「ラズモフスキー第1番」は、
まさに油の乗り切った時代の名曲である。
時のロシアのウィーン大使だったアンドレイ・ラズモフスキー伯爵から、
これが、世にラズモフスキー四重奏曲として有名な3つの弦楽四重奏曲である。
「ラズモフスキー第1番」は、チェロのおなじみののどかな旋律で始まる。
そのイメージは、閑静な郊外を走る少しローカルな電車が、
ゆっくり駅をすべり出て行く姿を思い浮かべる。
一方、弦楽四重奏曲第114番は、しっとりとした調べが心穏やかにさせてくれる。
ラズモフスキーののどかな調べと対照的で、いいカップリングである。
200年前に、ロシアからウィーンに赴任したラズモフスキー伯爵は、
要人を招いたパーティで、自慢げにこの曲を披露させたり、
故郷を思って家族でこの曲で郷愁に浸っていたのだろうか。
いずれにしろ、うらやましい身分で贅沢な趣味の持ち主である。
わが国の在外公館は、私たちの血税で驚くべき数のワインを買い溜めて保管したり、
保管し損ねて大量に廃棄したりしているという記事を目にしたが、
いつの時代でも外交官殿は、異郷の地で淋しさを紛らわすのに苦心しているようだ。
「ラズモフスキー第1番」のフルスコアが無料でダウンロードできる。
私は暇なときはそのスコアを見ながら、この名曲を楽しんでいる。
第3楽章は音符の混み具合とゆったりした曲想のギャップがあり、
初見のときは目の方が先走りはしたが、
ソロ楽器が4種類のスコアなので、すぐ慣れて楽に音符を追っていける。
37分の曲があっという間に終わってしまう感覚が不思議で、
目で見るアンサンブルもまた楽しからずや、といったところである。
お気に入りの場所で、本を読みながら、暖かいお茶を飲みながら、大きな月を愛でながら、
リラックスして聴いていただきたい、秋にぴったりの名曲である。