遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ベートーヴェン:ラズモフスキー第1番/アマデウス弦楽四重奏団

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ベートーヴェン弦楽四重奏曲第7番Op.59-1『ラズモフスキー第1番』
        弦楽四重奏曲第14番ハ短調Op.131
演奏:アマデウス弦楽四重奏団
録音:1959年5月19-27日(第7番)、1963年6月10-13日(第14番)、ハノーファー


弦楽四重奏曲第7番、いわゆる「ラズモフスキー第1番」は、

ベートーヴェン36歳(1806)年のときの作品で、この翌年に交響曲第5番を作曲しているので、

まさに油の乗り切った時代の名曲である。

時のロシアのウィーン大使だったアンドレイ・ラズモフスキー伯爵から、

弦楽四重奏曲の作曲依頼を受けたベートーヴェンは、3曲の弦楽四重奏曲を作曲した。

これが、世にラズモフスキー四重奏曲として有名な3つの弦楽四重奏曲である。


私のCDには、「ラズモフスキー第1番」と弦楽四重奏曲第14番ハ短調が入っている。

(画像のアマデウス弦楽四重奏団のアルバムとは、少し構成が違っている。)


「ラズモフスキー第1番」は、チェロのおなじみののどかな旋律で始まる。

そのイメージは、閑静な郊外を走る少しローカルな電車が、

ゆっくり駅をすべり出て行く姿を思い浮かべる。

宝塚駅を出発する、今津線阪急電車のようなイメージかもしれない。


一方、弦楽四重奏曲第114番は、しっとりとした調べが心穏やかにさせてくれる。

ラズモフスキーののどかな調べと対照的で、いいカップリングである。


200年前に、ロシアからウィーンに赴任したラズモフスキー伯爵は、

要人を招いたパーティで、自慢げにこの曲を披露させたり、

故郷を思って家族でこの曲で郷愁に浸っていたのだろうか。

いずれにしろ、うらやましい身分で贅沢な趣味の持ち主である。

わが国の在外公館は、私たちの血税で驚くべき数のワインを買い溜めて保管したり、

保管し損ねて大量に廃棄したりしているという記事を目にしたが、

いつの時代でも外交官殿は、異郷の地で淋しさを紛らわすのに苦心しているようだ。



「ラズモフスキー第1番」のフルスコアが無料でダウンロードできる。

私は暇なときはそのスコアを見ながら、この名曲を楽しんでいる。

第3楽章は音符の混み具合とゆったりした曲想のギャップがあり、

初見のときは目の方が先走りはしたが、

ソロ楽器が4種類のスコアなので、すぐ慣れて楽に音符を追っていける。

37分の曲があっという間に終わってしまう感覚が不思議で、

目で見るアンサンブルもまた楽しからずや、といったところである。


お気に入りの場所で、本を読みながら、暖かいお茶を飲みながら、大きな月を愛でながら、

リラックスして聴いていただきたい、秋にぴったりの名曲である。