遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

第五十七回 日本伝統工芸展

第五十七回 日本伝統工芸展 


戦後、急速に生活スタイルが変化していく中で、存続の危機にさらされた日本の伝統工芸。

昭和29年、各地に伝わる工芸技術の保護・育成のために誕生したのが、

「日本伝統工芸展」である。

陶芸、漆芸、染織、木竹工など七つの部門で、現代の匠(たくみ)たちが、

技の限りを尽くして競う“工芸界の日本一決定戦”。

およそ2000点の中から、16点の受賞作品が選ばれた。
http://www.nihon-kogeikai.com/KOGEITEN/KOGEITEN-057/KOGEITEN-057-JUSYO.html

その素晴らしい作品を、今年もNHK「日曜美術館」にて鑑賞。

日本工芸会総裁賞(グランプリ)を受賞したのは、栃木県に住む45歳の主婦。

イメージ 1

重ね六つ目盛籃「水鏡」  磯飛(いそひ)節子

一目見て、その清楚な佇まいが印象に残る竹工芸の優品である。なんと幅 1.5mm、厚さ 0.22mmに成形した竹を薄茶から赤茶まで4段階に染めて微妙なグラデーションをつけたという。伝統的な六つ目編みに独自の工夫を加えた編みの技法は巧緻をきわめており、「水鏡」の名称のとおり、澄み切った湖面を彷彿とさせるものがある。(小松大秀)

この作家が、竹工芸の道に入ったきっかけは、

子育てで一区切りした30歳のときに入った、文化センターでの竹細工の編み方教室。

そしてわずか15年で、日本一に輝いたという。

彼女は、名工たちの作品を目にすると、作家に技術的なことを臆面もなく質問し、

それらをノートに書きとめて自らの技を磨いていったという。

もともと素養のある人なのだろうが、作品を精魂込めて作り上げていく姿から、

まず努力と精進が好きな人しか、工芸展に登場できないと確信できるのである。


日曜美術館」の番組内では、入賞作品の紹介とその創作風景を紹介していた。

高松宮記念賞 (準グランプリ)の九谷の彩色皿の技法と作品も、

伝統に裏打ちされた新しさが秀逸だった。


私は、作品以上に創作している映像がことのほか好きで、

彼らの息詰まるような丹念な作業を見ていると、うれしくて楽しくて仕方がない。

彼らのその丹念な作業の前段で作成される、

長年の努力で培われた、大胆かつ緻密な創造力に裏打ちされた、

造形美への脳内設計図のすごさが、私たちを惹きつけてやまないのである。


日本伝統工芸展は東京での展示を終え、

明日10月6日から三越名古屋栄店を皮切りに、来年3月の大阪展まで全国を巡る。