遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

木を植えた人/ジャン・ジオノ

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木を植えた人   ジャン ジオノ   原 みち子 (訳)  こぐま社



年老いてもう耕すことのなくなった畑を、老夫婦は自然に帰すことした。

畑にさまざまな木を植えて、森や林のようにして自然にかえすことにした。

秩父の山深い急斜面に暮らす、小林ムツさんは、

夫の公一さんと、1万本以上の木を植えて、畑を山にかえした。

先祖代々耕してきた畑を、春の花や秋の紅葉で美しく変身を遂げる森にして、

山の神さまにかえしたのであった。

老夫婦のその美しい発想に驚き、彼らの行動とその結果に感動した。


残念なことに2009年の1月に亡くなられたが(合掌)、

ムツさんは80有余年の生涯のほとんどを秩父で暮らし、

その静謐な暮らし方は、NHKを通じて全国の視聴者の胸を打った。

秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋」 http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/54681916.html


ムツさんの、数年間のインターバルを置いた何回かの放送を見て

この人との素晴らしい出会いに、感謝した。

人は木を植えにこの世に生まれてきたのだと思った。


ジャン・ジオノの「木を植えた人」は、

フランスはプロヴァンスの、荒れた高原に木を植え続けた男の物語である。

毎日毎日、羊を飼いながら、晩年はミツバチを育てながら、

男はひたすらどんぐりを植えて、苗を植えて、荒れた土地に緑の森を創っていった。

戦争がはじまろうが終わろうが関係なく、静かな男はせっせと木を植えていく。

人は、木を植えるために生まれてきたのだ。

   【訳者の解説より】

      ほんとうに世を変えるのは、権力や富ではなく、

       また、数と力を頼む行動や声高な主張でもなく、

       静かな持続する意志に支えられた、力まず、目立たず、

       おのれを頼まず、速攻を求めず、ねばり強く、無私な行為です。


ジャン・ジオノの、ごくごく短いこの創作物語は、

静謐な日々の営みが、人のこころを打つことを証明した、静かなる名作である。