木を植えた人 ジャン ジオノ 原 みち子 (訳) こぐま社
畑にさまざまな木を植えて、森や林のようにして自然にかえすことにした。
秩父の山深い急斜面に暮らす、小林ムツさんは、
夫の公一さんと、1万本以上の木を植えて、畑を山にかえした。
先祖代々耕してきた畑を、春の花や秋の紅葉で美しく変身を遂げる森にして、
山の神さまにかえしたのであった。
老夫婦のその美しい発想に驚き、彼らの行動とその結果に感動した。
残念なことに2009年の1月に亡くなられたが(合掌)、
ムツさんは80有余年の生涯のほとんどを秩父で暮らし、
その静謐な暮らし方は、NHKを通じて全国の視聴者の胸を打った。
ムツさんの、数年間のインターバルを置いた何回かの放送を見て
この人との素晴らしい出会いに、感謝した。
人は木を植えにこの世に生まれてきたのだと思った。
ジャン・ジオノの「木を植えた人」は、
フランスはプロヴァンスの、荒れた高原に木を植え続けた男の物語である。
毎日毎日、羊を飼いながら、晩年はミツバチを育てながら、
男はひたすらどんぐりを植えて、苗を植えて、荒れた土地に緑の森を創っていった。
戦争がはじまろうが終わろうが関係なく、静かな男はせっせと木を植えていく。
人は、木を植えるために生まれてきたのだ。
【訳者の解説より】 ほんとうに世を変えるのは、権力や富ではなく、 また、数と力を頼む行動や声高な主張でもなく、 静かな持続する意志に支えられた、力まず、目立たず、 おのれを頼まず、速攻を求めず、ねばり強く、無私な行為です。
ジャン・ジオノの、ごくごく短いこの創作物語は、
静謐な日々の営みが、人のこころを打つことを証明した、静かなる名作である。