父親は少年だったロマンを、ゲットーから逃亡させることに成功した。
ポランスキーは、ナチの極悪非道の限りを、
子どもの頃に見た、ポーランドのゲットーの原風景も映画に取り入れらているようである。
脈絡のない殺戮というのが戦争だとすれば、
その対極にある約束された幸せが芸術だと、私は常に思っている。
この作品「戦場のピアニスト」には、そのどちらもが描かれている。
例によって、ほぼ白紙の状態で作品を見ることにしている私は、
この作品は、芸術を大きく取りあつかった作品だと思っていたのだが、
脈絡のない殺戮の方が多くを占めていて、執拗にナチとユダヤ人を描き続けた。
時に息苦しくなるほどの、主人公シュピルマンの逃亡生活に、
少年期にゲットーを逃げ出して、渾身の思いでこの作品を世に送り出した、
ポランスキー自身が重なり合う。
その息苦しさが、この作品の欠点とも言えるのだが、
白地に青いダビデの星を描いた腕章を右腕に巻いて、
「私はユダヤ人でございます」と宣言し続けた生活を余儀なくされたものでしか
語れないことなのかもしれない。
しかし、映画を見終わって最も大きく心に残るものは、
戦場ではなくピアニストの方なのである。
凶暴さの微塵もないしなやかな感性に、力づけられ、
いまさらながら心を洗われるのである。
そういう感性は、人類が生まれた太古の昔から、
時を越えどんな人たちにも等しく与えられた特性なのだと、
強く思う今日この頃なのである。