遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

戦場のピアニスト/ロマン・ポランスキー

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ユダヤ系のロマン・ポランスキー監督はパリに生まれ、

家族でポーランドに移住し、ドイツ軍にユダヤ人ゲットーに押し込められる。

父親は少年だったロマンを、ゲットーから逃亡させることに成功した。

フランスに逃亡したポランスキーは、そこでもユダヤ人として迫害を受け続けた。


ポランスキーは、ナチの極悪非道の限りを、

ポーランドの実在のピアニストである、シュピルマンを通して描きたかったのだろうと思う。

子どもの頃に見た、ポーランドのゲットーの原風景も映画に取り入れらているようである。


脈絡のない殺戮というのが戦争だとすれば、

その対極にある約束された幸せが芸術だと、私は常に思っている。

この作品「戦場のピアニスト」には、そのどちらもが描かれている。

例によって、ほぼ白紙の状態で作品を見ることにしている私は、

この作品は、芸術を大きく取りあつかった作品だと思っていたのだが、

脈絡のない殺戮の方が多くを占めていて、執拗にナチとユダヤ人を描き続けた。


時に息苦しくなるほどの、主人公シュピルマンの逃亡生活に、

少年期にゲットーを逃げ出して、渾身の思いでこの作品を世に送り出した、

ポランスキー自身が重なり合う。

その息苦しさが、この作品の欠点とも言えるのだが、

白地に青いダビデの星を描いた腕章を右腕に巻いて、

「私はユダヤ人でございます」と宣言し続けた生活を余儀なくされたものでしか

語れないことなのかもしれない。


しかし、映画を見終わって最も大きく心に残るものは、

戦場ではなくピアニストの方なのである。


凶暴さの微塵もないしなやかな感性に、力づけられ、

シュピルマンの演奏する、ショパンノクターンやバラードに、

いまさらながら心を洗われるのである。

そういう感性は、人類が生まれた太古の昔から、

時を越えどんな人たちにも等しく与えられた特性なのだと、

強く思う今日この頃なのである。


アカデミー主演男優賞受賞
アカデミー監督賞
カンヌ国際映画祭 2002年度 パルムドール受賞