遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

最悪/奥田英朗

イメージ 1

 
 最悪   奥田 英朗     (講談社文庫)


お先まっ暗、出口なし それでも続く人生か

小さなつまずきが地獄の入り口。転がりおちる男女の行きつく先は?

不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢(あつれき)や、

取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。

銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。

和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。

無縁だった3人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。


650頁のこの長編小説、

主人公の3人が遭遇するのは、500ページを越えた、かなり後半のこと。

そこから物語りはテンポを速めて、回転しだす。


しかし、3人が遭遇するところまでは、川谷とみどりと和也の、

やるせないほどの不器用な人生に、付き合わされるのである。


最悪な3人に付き合うのに息が詰まってきて、

私は途中で、橋本忍の本を読み、またこの作品に帰ってきた。

作家は、3人を最悪に仕立て上げているのだけれど、

私から見れば、そんなに大したことではなく、

いつでもその最悪状態から抜け出せるのに、そうならない3人がやるせないのである。


たとえば、猛吹雪の絶壁で遭難寸前の夫婦を描いた沢木 耕太郎の「凍」
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/60145508.html

いわゆる純愛を捧げとおしている行き遅れたOLを描いた絲山秋子の「袋小路の男」  
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/58520220.html

逃げ場のない地獄のような閉ざされた空間で、人間の尊厳を奪われる小林多喜二の「蟹工船
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/57537081.html

徒歩でシベリアからインドへ逃亡した脱獄兵を描いたスラヴォミール・ラウイッツ 「脱出記」
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/55560031.html

どれもこれ以上最悪はないといった不条理を描いてはいるが、

現状を打破するための力が感じられるから、読み手を惹きつける何かが存在する。

「最悪」にはそれが描かれていない、あるいは感じられない。

クライムノベルだからという言い訳も立たない気がするのである。


今年私が読んだ中で、ワーストワンの予感の大作であった。