最悪 奥田 英朗 (講談社文庫)
お先まっ暗、出口なし それでも続く人生か 小さなつまずきが地獄の入り口。転がりおちる男女の行きつく先は? 不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢(あつれき)や、 取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。 銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。 和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。 無縁だった3人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。
主人公の3人が遭遇するのは、500ページを越えた、かなり後半のこと。
そこから物語りはテンポを速めて、回転しだす。
しかし、3人が遭遇するところまでは、川谷とみどりと和也の、
やるせないほどの不器用な人生に、付き合わされるのである。
最悪な3人に付き合うのに息が詰まってきて、
私は途中で、橋本忍の本を読み、またこの作品に帰ってきた。
作家は、3人を最悪に仕立て上げているのだけれど、
私から見れば、そんなに大したことではなく、
いつでもその最悪状態から抜け出せるのに、そうならない3人がやるせないのである。
どれもこれ以上最悪はないといった不条理を描いてはいるが、
現状を打破するための力が感じられるから、読み手を惹きつける何かが存在する。
「最悪」にはそれが描かれていない、あるいは感じられない。
クライムノベルだからという言い訳も立たない気がするのである。
今年私が読んだ中で、ワーストワンの予感の大作であった。