かつては英語名ボンベイと呼ばれていたインドのムンバイは、
いまや世界有数の、金融と経済の都市である。
そのムンバイのスラムで育った、貧しくて無学な若者ジャマールが、
インドの国民的人気番組「クイズ・ミリオネア」で大金を獲得していく。
しかし、「スラム出身の負け犬」が難問を解けるはずがない、イカサマをしているんだろうと、
クイズの一日目が終ったあとで、ジャマールは警察に連行され取調べを受けることになる。
刑事はジャマールに、クイズのVTRを再生しながら、なぜこの問題を正解できるんだ、
どのような方法でイカサマをしたのかと、執拗に尋問を繰り返すのである。
ジャマールは番組で、「アメリカの100ドル札の肖像はフランクリン」だと正解するのだが、
警察の取調べでの質問、「インドの1000ルピーの肖像がガンジー」だと答えられないのである。
自国の通貨の肖像が誰なのかが分らないで、なぜ100ドル紙幣のフランクリンを知っているのか、
その答えは、この映画でのもうひとつのストーリー、
ジャマールと幼馴染の美少女ラティカとの純愛物語のなかにある。
難問クイズに答えられるようなを知識を、どのように自分のものにしてきたのか、
そして、美少女ラティカにどのように彼の半生を捧げてきたのか、
この作品を形成する大きな二つの潮流が、絡み合ってもつれ合っていくさまが、
広大なムンバイのスラムや雑踏の中やインドの大自然に投影される。
絡み合いもつれ合って複数の時制を持ったストーリーの展開は、
映画が持つもっとも特徴的な表現形式で、私の大好物でもある。
幼きジャマールとその兄とラティカが自ら編成した「三銃士」は、
デュマの三銃士に勝るとも劣らない冒険活劇ロマンを、
中世のフランスではなく、混沌としたインドの地で繰り広げてくれる。
文句のつけようがない素晴らしい作品である。