遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

“無縁死”3万2千人の衝撃

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昨日は部下のご家族の葬儀に参列、たくさんの親族に見送られた立派な葬儀であった。

先週の日曜日に、NHKスペシャル「無縁社会~“無縁死”3万2千人の衝撃~」

という番組を見てショックだったので、昨日の葬儀の親族の方々の涙に、

何だか少しほっとしたのである。


以下、番組内容を少し紹介してみる。


NHKが全国の自治体に片っ端から調査したところによると、

昨年の、無縁死は3万2千人にも及んだという。

「無縁死」とは、無縁仏になるしかない引き取り手のない死亡人のことで、

ほとんどが、ひとり暮らしのお年寄り、あるいはホームレスなのである。

番組では、東京湾に浮かぶ水死体を回収する衝撃映像も流していたが、

海に身を投げる自殺者たちも後を絶たないようで、彼らも多くが無縁死という。


実を言うと、無縁死の3万2千人のほとんどに、親族がいるのだが、

子どもや兄弟や親族が、遺骨を引き取らないのだそうである。

ある無縁死の人が住んでいた住居が、取材されていたのだが、

その住居には仏壇があり、その仏壇にお骨が2体分置かれていた。

長男が両親の遺骨の受け取りを拒否したため、

亡くなったご夫婦は無縁仏になる運命なのだという。


また、自分は無縁仏になると分っている人たちは、

死んだ後の身辺整理や弔いや墓の供養まで、NPOと生前に委託契約をおこなって、

孤独死の準備をしているのだと番組で紹介されていた。

あるNPOでは、その契約者数が4000人とも紹介されていた、嗚呼。


都市銀行でモーレツ・サラリーマンだった人が、実名で、顔も出して取材されていた。

高度成長期からバブルに至るまで、馬車馬のように働いて、

家族を顧みず仕事一筋でバリバリ働いていて、

中年にかかって身体を壊し、妻と子どもは彼の元を去り、

銀行を退職して、今は一人暮らしの毎日。

彼は、目に生気が見られず、生きる気力を失っていると見えたが、

あるとき、どこかの見知らぬ老夫婦が尺八を演奏している風景に出会って、

「私はああいう老後を夢見ていたのに」と慟哭する姿に、胸が痛んだ。

会社のために、自分のために、家族のために、老後のために、

彼は命を懸けてその大銀行で、働いてきて、社会に捨てられたのであった。


番組は、孤独死をした人たちや、やがて無縁死を迎える人たちを、

1年間にわたり取材し、淡々と静かに映像化した優れた番組だった。



2009年の交通事故死者は4914人。9年連続で減少し、57年ぶりに5000人を下回った。

交通規則を順守しお行儀好い運転を心がけ、整備の行き届いた高性能の車に乗っていれば、

ピーク時からの交通事故死は3分の1まで下がってきたのだ。


2009年に発生した殺人事件(未遂を含む)は、前年比で15.4%減の1097件。戦後最少となった。

長い不況で人の心は荒んでいるのに、銃刀を持つことを良しとしない国民性と、

バランス感覚に優れた世界観を持つ私たちは、世界一治安のいい国で暮らせている。


しかし、2009年の自殺者は32753人、10年連続3万人以上を記録している。

10年間で30万人を超す自殺者を生み出し、昨年は無縁仏を3万人以上弔った。

人と人を結んでいる何かが、何故だか姿を見せなくなって久しい感じなのだ。

それが私たちの国の悲しい実態なのである。


NHKスペシャルが投げかけた、

「いま日本はこのようなことになっています」という静かな問いかけは、

先ほど、「命を守る」と言った首相の施政方針演説よりはるかに雄弁だった。