遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

1984年/ジョージ・オーウェル

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1984年  ジョージ・オーウェル  高橋和久 (翻訳)  (ハヤカワepi文庫)


2009年のベストセラーは、村上春樹の「1Q84」だったとか、
本年最初の書籍の紹介は、本家ジョージ・オーウェルの「1984年」。
昨年新訳が出版されて、読みやすくなったということで購入、

オーウェルの作品は、はじめて読む。

表紙裏の出版社からの内容紹介文

ビッグブラザー復活! 二十世紀世界文学至高の傑作が新訳版で登場!
〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する全体主義的近未来。

ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。
しかし彼は、以前より完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。ある時、
奔放な美女ジュリアと出会ったことを契機に、伝説的な裏切り者が組織した
と噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが……。

<ビッグ・ブラザー>は、スターリンがモデルだといわれており、一方、党の異端で憎悪の対象となる<ゴールドスタイン>のモデルが、トロツキーだといわれている。

主人公のウィンストンは、反体制のゴールドスタイン派でありながら、ビッグブラザー率いる党の党員という、自己矛盾を抱えている。

ウィンストンはジュリアを、自分のことを尾行し監視しているスパイだと思っていた。

あるとき、職場ですれ違いざまに彼女はウィンストンの目の前でばったりと倒れる。
スパイだと忌み嫌っていた女を、ウィンストンは本能的に助け起こしていた、そして、その短い時間の間に、ジュリアは紙片を彼の手に滑り込ませていた。

職場のテレスクリーン(高性能の監視カメラ)監視の下、奔放で大胆なジュリアはウィンストンに紙片を手渡した。
党員同士の恋愛や生殖目的以外の性的接触は、断じて許されるものではなく、男女の交際が発覚すると大変な事態が彼らを襲うことになる。
しかし、ジュリアの紙片には「あなたが好きです」と書かれてあった。

13歳の年の差を越えて、ウィンストンとジュリアのラブロマンスは、党に隠れて逢引を繰りかえし、進展していくのである。

物語もこの男女のラブロマンスを中心に展開し、後半に暗転するまでは、品のいい恋愛小説と見まごうばかり。うっとりと魅入られてしまう。

観ていない方には何のことかと思われるが、映画「恋におちたシェークスピア」と「時計じかけのオレンジ」を、足し合わせたような、不思議な世界が展開されるのである。

オーウェルがこの物語の中で提起した概念、「二重思考」。
一人の人間が矛盾した二つの信念を同時に持ち、同時に受け入れることができるという、「二重思考」。

・戦争は平和(WAR IS PEACE)

・自由は屈従(FREEDOM IS SLAVERY)

・無知は力(IGNORANCE IS STRENGTH)

という党の3つのスローガンで表される二重思考


この思考は、全体主義国家で生き延びるためだけの術(すべ)ではない、私たちでもそのように自己矛盾をいなしてやり過ごして受け入れて、うまく立ち回っているような気がする。

私はその矛盾を抱えて生きてきたし、残念ながら、ますますそういう傾向が強くなってきたことを自覚している。
しかし、ジュリアのような対象がたった一人でも居たとするなら、ジュリアと過ごす時間だけが、あるいは、たとえ身は引き離されても、ジュリアとの思い出に耽(ふけ)ることが、誰にも邪魔をされることのない、二重思考ともっともかけ離れた確かな世界であるはずである。
 
何人といえども、2人の世界に割って入って来ることは不可能なはずなのである。

オーウェル45歳の1949年に刊行された「1984年」は、あってはならない世界を描いた、ディストピア(反ユートピア)小説の名著である。