遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

家族の肖像/ルキノ・ヴィスコンティ

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家族の肖像
Coversation Pierce
監督・脚本 ルキノ・ヴィスコンティ
脚本
スーゾ・チェッキ・ダミーコ
エンリコ・メディオーリ
出演者 バート・ランカスター
ヘルムート・ベルガー
シルバーナ・マンガーノ
公開 1974年12月10日(イタリア)
1978年11月25日 (日本)
上映時間 121分
製作国 イタリア・フランス
言語 英語・イタリア語


原題の「Coversation Pierce」とは、

18世紀イギリスで流行した「家族の団欒を描いた絵画」のこと。


主人公を演じるバート・ランカスターは、

その「家族の肖像」をコレクションし研究することに没頭する年老いた元教授。

大きな邸宅にたった独りの生活を続けていて、

家族がいないかわりに、書斎の壁にはコレクションの「家族の肖像が」

所狭しと懸けられている。


そんなランカスター邸の2階部分を貸してほしいと、

上流階級の夫人シルバーナ・マンガーノがやってきた。

マンガーノは、同時に若い恋人ヘルムート・ベルガーや、

自分の娘とその婚約者を伴っており、

それら若者たちと、年老いた教授の交流を軸に物語は展開していく。


 「カラスは群れて飛び

      ワシは一羽で舞い上がる」


独りの自分をワシにたとえる老教授の周りを、

うるさいカラスたちが飛び回る生活がはじまる。


孤独を愛していたはずの教授だったが、

階上に住むことになったあぶない若者ヘルムート・ベルガーに、

子どもを思う親のような感情が湧き上がってくる。


ルキノ・ヴィスコンティは、これが最後の映画のつもりで撮ったと聞く。

その決意を聞かされると、バイセクシャルだと公言してはばからなかった、

ヴィスコンティとベルガーの思い出作りなのかな、とも思った次第である。

それはそれで悪くはない、格調高さはまったく失せていない。


お行儀よく幸福そうな親子たちが並んでいて、

記念写真のように描かれている、「家族の肖像」。

写真のない時代に、そのような絵画を描いてもらえる家族は、

富も栄光も手に入れた家長のもとに、幸福に暮らしてきたはずである。

その一見穏やかな微笑みの下には、

シルバーナ・マンガーノや彼女の子どもたちが抱える怒りや悲しみが、

深い闇のように沈殿しているのかもしれない。


ワシのように滑空して独りで生きてきた老教授は、

人生の晩年にやってきたカラスたちを、どう感じていたのだろうか。

壁に懸けた多くの肖像コレクションに、何を見たのだろうか。

その答えをヴィスコンティは明示していない、

フィルム作品を観た私たちに、問いかけて答えを預けているだけなのである。



教授の回想シーンに、母親と思しきドミニク・サンダ

妻と思しきクラウディア・カルディナーレが、静かに穏やかに登場する。

懐かしくて美しくて、私にとっても素晴らしい回想シーンであった。



(画像の作品は「画家の家族の肖像」 ヤーコブ・ヨルダーンス 1620年頃 プラド美術館