遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

アルペジオーネ・ソナタ/シューベルト

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曲目
シューベルトアルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821
シューマン:民謡風の5つの小品 作品102
ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調

録音:1968年7月 スネイプ、1961年7月 ロンドン


昨年の秋ごろだったか、ちょうどそのころ終ったばかりの、

2008年度の日本音楽コンクールを追いかけたドキュメンタリーを見た。


コンクールの各部門ごとにたっぷり時間を配分した、

実に面白いドキュメンタリー番組だった。


予選を勝ち抜いた本選出場者たちの、日常の音作りを追いかけたり、

練習風景を紹介したり、本選の演奏ハイライトをたっぷり見せてくれた。

どの部門の本選の演奏を聴いても、素人の私には演奏の良し悪しの差をつけられなかったが、

そんな激戦の中、チェロ部門の第1位は奈良県の若き男子(高校1年生)だった。


そのチェロ部門の本選の課題曲が、

シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ イ短調」であった。


はじめて聴くその美しい調べにうっとりとして、速攻でこのアルバムを購入した。


アルペジオーネというのは、ギターのように6本弦でネックにフレットがついた、

チェロ様の楽器だそうで、この曲はその楽器のためのソナタである。

アルペジオーネという楽器は事実上消滅しているようであるが、

この楽曲は消滅しないでいまも息づいている。

恥ずかしながら私がそのことを知ったのは、つい数ヶ月前なのだが、

それはともかく、シューベルトのこの名作はきらきら輝いて生き続けている。


例によって、なぜこの1枚を買ったのかよくおぼえていないが、

1960代の録音といささか古い音にもかかわらず、

シューベルトの官能的でロマンチックな旋律と、

二人の演奏者ロストロポーヴィチブリテンの、

絶妙なるコンビネーションが、聴く者の胸を強く打つ。

ブリテンは20世紀の大作曲家であるが、ピアノの名手でもあったようだ。


偶然見つけた、小さくて目立たない曲なのだけど、

昨年の秋以来、夜な夜な小悪魔のように私の心を捉えて放さない。

おまけに入っているシューマンドビュッシーの作品も、

とてもとても良い作品と演奏で、「おまけ」という言葉を撤回する。
 

この185年前のシューベルトを一度聴いていただきたい、

時空を超えて、心が洗われるはずである、

生きる勇気を与えてくれるはずである。