遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

アメリカン・ギャングスター/リドリー・スコット

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1971年3月8日ニューヨークはマディソン・スクエア・ガーデン

ベトナムへの徴兵を拒否しチャンピオンを剥奪されたモハメド・アリが、

4年間の空白の後、再起をかけジョー・フレージャーに挑戦した。

この世紀の一戦が楽しみで仕方なかった当時高校生だった私は、

放課後に学校近くの親友宅で、TV中継を見せてもらったことをおぼえている。



その一戦のリングサイドの特等席に、派手な毛皮のコートを着た黒人が現れた。

それがデンゼル・ワシントン演じる、若き黒人麻薬王であった。


実在した麻薬王(フランク・ルーカス)の半生記をあつかった物語である。


目立ったことをせず、しかしすでにニューヨークの麻薬王だったデンゼル・ワシントンは、

世紀の一戦を前に、妻から贈られた高価で派手な毛皮を身につけ、

アリの試合を観るためにリングサイドの席に着いた。

それが彼の最初のつまずきだった。


その時、マディソン・スクエア・ガーデンに集まった、

要人・著名人・暗黒街の黒幕の写真を撮っている刑事が、

麻薬捜査官のラッセル・クロウであった。

マフィアの席の前に座った派手な毛皮を着たあの黒人は誰だ、

ラッセル・クロウに思わせてしまったのが、ワシントンのつまずきであった。


その麻薬王の存在にいち早く気付いていて、デンゼル・ワシントンにたかる悪徳刑事を、

「ノー・カントリー」で「逃げる男」を好演していたジョシュ・ブローリンが演じる。



この作品は、ニューヨークを舞台に静かな黒人麻薬王が、

イタリアン・マフィアを凌駕する「集金システム」を構築していく物語で、

正義感あふれるユダヤ系麻薬捜査官と、ギャング以上に性根の腐った悪徳刑事が絡んでいく。

3人のバトルロイヤルは、当たり前だが実話どおりに納まってくれ、

その実話のおさまりどころが、私は大いに気に入っている。


70年代初頭の時代考証に苦労したのだろう、スクリーン全体が暗いシーンが多くて困った。

屋外のロケでは映り込んでは困るものが多すぎて、暗いトーンで逃げたのだろう。

でも、当時の車はたくさん走らせてくれて、私には懐かしかった。


ちなみに、モハメド・アリはフレージャーとの試合でキャリア初の敗戦を喫してしまった、

私は実に落胆したことを、今でもはっきりおぼえている。