この作品で、主演男優賞を受賞したアカデミー授賞式での、
ダニエル・デイ=ルイスを憶えておられるだろうか。
タキシードに長髪にイヤリング姿のあでやかさは、
この作品の主人公とは似ても似つかぬ男っぷりであった。
金鉱をさがし当てるために、ただ独りで縦穴を掘っていた主人公は、
ある日僅かな金鉱脈を発見し、小さな成功をおさめる。
時は西暦1900年頃のアメリカ西部。
この小さな成功が、主人公「山師」を石油王に導く。
石油王に限らず、自分のところにカネが集まって来る仕組みを構築するには、
幾多の血が流れることになる。
ちょうど昨夜はBSで「ゴッド・ファーザー」を放送していたが、
この「ゴッド・ファーザー」も、マフィアの集金システム構築大河物語である。
この、システム構築過程の人間ドラマが面白くて、
たぶん人間って素晴らしくて醜いもんだなと血が騒ぎ、
感動をおぼえるのだと思う。
人の醜い悲しい部分を見ても、なぜか血が騒ぐのである。
主人公の山師=石油王を演じたダニエル・デル=ルイスは、
オスカーをはじめ、あらゆる主演男優賞に輝いた。
荒野の縦穴で独りで働きはじめ、夢の実現のためにたゆまぬ努力を続け、
息子や弟や土地所有者や宗教家やメジャーの石油会社と対峙していくなかで、
主人公は夢を少しずつ実現していく。
しかし、詳しいストーリーは紹介しないが、
何かをむりやり手に入れれば、知らないうちに何かを失うということになってしまう。
これは、文学や映画が生まれて以来今日まで底流をなすテーマであろう。
それは、罪深い私たちすべての重い課題でもあろう。
そんな普遍的なテーマを158分のあいだに、監督ポール・トーマス・アンダーソンは、
静かな大地を背景にスペクタルも交えて、素敵な音楽とともにたっぷり見せてくれる。
こういうのを、映画と呼ぶ。