遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

原爆の夏 遠い日の少年

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TBSのBSで「原爆の夏 遠い日の少年」を観る。

これは2004年制作のドキュメンタリーの再放送だという。


この写真を撮ったのは、米国従軍カメラマンのジョー・オダネル。

彼は後にホワイトハウス専属カメラマンになり、

歴代の大統領の肖像やそのファミリーを撮り続けた人物である。

暗殺されたジョン・F・ケネディの棺に敬礼をする、

ケネディ・ジュニアのアップを撮った一枚もオダネルの手になるものである。


オダネルは太平洋戦争直後に、

原爆の傷跡も生々しい長崎に配属された。

そこでこの写真の少年に出会った。


「焼き場に立つ少年」と題されたこの写真、

私は寝ている弟を背負って、

原爆で亡くなった両親を荼毘に付すのを見ている少年だと思っていたのだが、

実はそうではなくて、

背中に負ぶっているのは彼の亡くなった弟で、

少年は弟を荼毘に付すために、焼き場の傍らで直立不動で順番を待っていたのだという。


オダネルは昨年の8月、85歳で天国に召されたそうだが、

TVのドキュメンタリーは、生前の彼が長崎を訪ねて、

この写真の少年の消息を訪ね歩くというものであった。


残念ながらこの少年に会うことは叶わなかったが、

帰国した彼は、長崎の写真展を地元で開催した。

その会場で、子どもを抱っこして少年の肖像を見ていた若い母親は、

この写真の前でしばらく立ち尽くして涙を流し続けていた。



オダネルは自宅の居間に「焼き場に立つ少年」の写真を置いている。

この少年のことが、忘れることができないのだそうだ。


少年は、弟が目の前で焼かれはじめたのを見届けて、

きびすを返して走ってその場を離れていったのだそうである。

涙も見せず一声も発せず、少年はオダネルのいるその場から、

走り去って行ったそうである。