遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

失踪当時の服装は/ヒラリー・ウォー

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失踪当時の服装は   ヒラリー・ウォー   山本 恭子 (訳) 創元推理文庫



一九五〇年三月、アメリカ、マサチューセッツ州の女子大学からロウエル・ミッチェルという
美貌の女子学生が失踪。
警察署長フォードは若手の巡査部長と一緒に、長年の経験をたよりに、この雲をつかむような
事件に挑む。
捜査の実態をリアルに描き、警察小説に新風をおこした問題作! 果して失踪か? 誘拐か?
殺人か?

●宮部みゆき氏推薦――「「捜査小説とはこういうものだ」というお手本のような傑作」
●黒川博行氏推薦――「重厚にして緻密、正統派警察小説の白眉」


この小説が本邦にお目見えしたのは、1960年のこと。


私が読み終わったのは、つい2日ほど前のこと。


私がこのミステリーの書庫で記事にした、


下調べをしていく中で出会ったタイトルが、

この、ヒラリー・ウォーの「失踪当時の服装は」(Last Seen Wearing )であった。


本書は、1950年のマサチューセッツ州ブリストルが舞台の警察小説であるが、

漂う空気は、イギリスの警察小説であり、

最初は登場する地名を見るたびに、

おっ、これはアメリカの小説なんだと、意識しなければならなかった。

それほど、ゆったり空気は流れているのであった。


翻訳も古風な部分があるが違和感までは抱かない。


たたきあげの警察署長のフォードは、

その後、モース警部(キドリントンから消えた娘、森を抜ける道/コリン・デクスター)や

フロスト警部(クリスマスのフロスト、夜のフロスト/R.Dウィングフィールド)を、

生み出したのかもしれない。



昼も夜もなく捜査や張り込みに引っ張り出され、

叱り飛ばされてばかりで辟易としている若い部下は、

自分の長年の「勘」を第一に信じ、

ぐいぐいと事件の核心に迫っていくフォード署長の手腕に、

しだいに尊敬の念を抱いていくようになる経過も、

モースやフロストと同じなのである。


ただし、違法捜査だと思しき場面が出てくるが、

その方法については意見の分かれるところだろう。

私は、堅いことは言わない。


ブリット(S・マックィーンの主演映画)だって、

小銭がないときに街角で、

どうしても読みたい新聞の自動販売機を壊していたし・・・。



宮部みゆきの「「捜査小説とはこういうものだ」というお手本のような傑作」、

という言葉どおりの、警察小説の古典的名作である。