遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

斧/ドナルド・E・ウェストレイク

イメージ 1

 斧  ドナルド・E・ウェストレイク  木村 二郎 (訳) (文春文庫)





アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの、

幼い頃の超有名な伝説をもとにした、私のお気に入りの、ブラック・ユーモア

≪ワシントンは、父親が大切に育てていたサクラの木を誤まって斧で切り倒してしまった。

でも、彼は父親に正直にそのことを打ち明けたので、

父親は正直者のワシントンを褒めて許してくれました。

でも、本当のところは、ワシントンがまだ「斧」を手にしていたから、

父親は息子を許さざるをえなかったんだとさ。≫


笑っていただけたろうか?



さて、本題は、ドナルド・ウェストレイクの「斧」。

主人公は、長年働いていた製紙会社をレイオフされた50歳代の失業者。

就職活動を続けても、どうしても職にありつけない主人公は、

すでに2年間も無職・無収入の生活が続いている。


彼はなぜ自分が就職できないのか、よーく考えた結果、

自分のライバル達がイケナイのだと考える。

製紙会社で培ったスキルは、同じ職種希望のライバル達の方に軍配が上がる。


そこで、主人公は架空の求人広告を新聞に掲載し、

自分と同じスキル・キャリアを持つ失業者を募り、

ちゃっかりライバル達の情報(住所・氏名・年齢・キャリア・スキル)を入手する。


嘘の求人広告に応募して来た男達が、

将来の主人公のライバルであるから、

彼らをこの世から「抹殺」してしまおうというわけである。


主人公の入手した個人情報が、彼の殺人リストになるのである。


この導入部の主人公の発想で、私は笑ってしまう、怖くなんかない、楽しめてしまう。

私にはこの作品は、ノワールではなく、ユーモア・ミステリであった。


2年間のぷータロー生活で心を病んで、自殺に走っても小説にはならない、

何とか生きて生活を立て直して、家庭崩壊を防ごうとする家長の宿命が、

殺人リストの作成とその実践という形になる。


面白いが、失業中の方にはお奨めできない。


ちなみに「斧」は、凶器ではなくて「ax;首切り」と言う意味である。



ウェストレイクの代表作「ホット・ロック」もお奨めである。