遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

フルメタル・ジャケット/スタンリー・キューブリック

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ベトナム戦争を扱った数々の戦争(反戦)映画、

帰郷 (1978)、ディア・ハンター (1978)、

地獄の黙示録 (1979)、プラトーン (1986)、ハンバーガー・ヒル (1987)、

そして、スタンリー・キューブリック監督作品、



原作はグスタフ・ハスフォードの小説「ショート・タイマーズ」(短期現役兵)。


いつものことながら、キューブリックの映画音楽のセンスのよさは、

冒頭のタイトルバックから始まる。

何とものんきなハワイ気分のお気楽ソングで、気分が乗ってくる。


ベトナムへ赴く前の、海兵隊に志願した普通の青年達の8週間の予備訓練の模様が、

前半にたっぷり描かれる。


この海兵隊訓練所の鬼軍曹ハートマン役のリー・アーメイがすごい。

彼は海兵隊の元軍事教練指導官で、

映画では、若い主人公達を徹底的にしごくのであるが、

自分のキャリアを十二分に生かした演技をした。

また、その言葉使いのひどいことひどいこと。

彼らを、メス豚!うじ虫!腰抜け!アカ!と罵り、

あろうことかマリアさまを冒涜し、人種的蔑視ことばを平気で口にする。


また、下半身にまつわるお下品な例えは、枚挙にいとまがなく、

見ているこちらが感心の末苦笑してしまうほど、うまい罵詈雑言を並べたてる。


これは喜劇なのではなかろうかと思っていると、

戦場に出て行く日が翌日に迫った夜に、

喜劇色が一瞬に吹き飛んでしまうのである。


後半は、新兵達がベトナムの大地に降り立ち、

ベトナム戦争を扱った数々の戦争映画と同様、「お決まり」の狂気と化した米兵達と、

仕事のできる冷静なベトコンたちとの死闘が繰り広げられるのである。


この映画のロケ地は全て英国だったようで、

廃墟と化した建物を舞台にした市街戦は、実にリアルな映像である。

その廃墟に潜む、たった一人のベトコンの狙撃兵に、

主人公達素人新兵の属する小隊は翻弄される。


その勇敢なたった一人の狙撃兵との死闘のリアルさが、

今観てみると、これがベトナム戦争だったのだというリアルさであった。



ベトコンに守護神がついていたのかどうかは知らないが、

彼らは生まれながらにして兵士であり、

彼らの日常が、自国の自然を守るための聖戦だったのであろう。


しかし、新兵訓練で、そんなことに気付かない事を教え込まれた筋金入りの兵士達は、

ミッキーマウス・クラブ」を口ずさみながら駆け足で前進するのであった。


ローリング・ストーンズの「黒く塗れ」とともに、

何ともむなしいエンドロールとなる。