遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

森を抜ける道/コリン・デクスター

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森を抜ける道  コリン デクスター  大庭忠男・訳 ハヤカワ文庫




「ネットワークケーブルが接続されていません」という短いメッセージに手を焼き、

ネット生活と4日ほど遠ざかっていた。まだ謎が解けずじまい。

感じの良いヤフーBBのサポート君と、30分以上あの手この手で試みたが、

結局未解決で終わった。

しかし、「無線LAN」契約をしていたようで、

サポート君との電話終了後、2年以上眠っていたLANカードをモデムに差し込むと、

息を吹き返したモデムは、見事ネットに繋がってくれた。


「森を抜ける道」はひとつではない。


ネット休業の日々の間に、コリン・デクスターを読む。

主人公モース主任警部の休暇の日々から、この物語は幕を開けた。


モースは50歳くらいになったろうか、

新聞を読まない休暇と決めていたのに、

ホテルで合席になった美女と、その美女の読む朝刊「タイムズ」が気になって仕方がない。


美人と仕事(事件)とクロスワードパズルが気になって仕方がない、

中年男の典型、なのに魅力的。


その後、その美女はモースからの「お薦めクラシック」の手紙に夢中になる。

また、鑑識の25歳下の眼鏡美人の女性科学捜査官が、彼の虜になってしまう。

羨ましい限りだ。



デクスターの美しい文体は、風光明媚な英国のオックスフォードやキドリントンのごとく。

和訳で読んでも英国文学の格調の高さが、独特の雰囲気が、嬉しくなってくる。

登場人物たちの会話の洒脱さも、いい材を使用した趣味のいい古い家具の如し。



魅力的なモースは、休暇をほどほどに切り上げて、

部下のルイス部長刑事と、とある事件の解決に脳細胞を働かす。


「森を抜ける道」はひとつではない。



 妻が皿を洗いながらウェールズの歌をハミングしているのが聞こえた。かれはキッチンに

はいっていって、彼女の体に腕をまわした。

「おれはもう寝るよ。-すこし疲れた」

「でも、ご機嫌みたいね。様子でわかるわ。いい日だったの?」

「とてもいい日だった」

「いやなモースが休暇をとったのでのんびりできたから?」

「いや、そうじゃない」

 彼女は手をふき、彼の方をむいた。「彼のために働くのが好きなんでしょ?」

「ときにはな」夫は認めた。「彼がおれを-ちょっと高めてくれるとでもいうのかな。

わかるか?」

 ミセス・ルイスはうなずき、ふきんを水道の蛇口の上にかけた。「ええ、わかるわ」彼女

は答えた。

1992年 英国推理作家協会(CWA)ゴールド・タガー賞受賞作品