遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

氷点/三浦綾子

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  氷点     三浦 綾子

                 角川文庫 (5025) 上・下 各 ¥483 (税込)




1963年(昭和38年)、朝日新聞社は大阪本社創刊85年・

東京本社75周年記念の1000万円懸賞小説を募集、

その受賞作が三浦綾子の「氷点」であった。


当時の1000万円というのは、気の遠くなるような莫大な賞金であった。



この小説は、東京オリンピックの熱冷めやらぬ1964年12月から、

朝日新聞で連載が始まり、1966年に同社から出版されベストセラーとなった。



また、同じく1966年にテレビ朝日系(当時のNETテレビ)でドラマ化されたこの作品は、

いわゆる「風呂屋がカラになる」ほどの大ヒットとなり、

平均視聴率は30%を超え、最終回の視聴率は42.7%だったそうである。


主演は、新珠三千代、内藤洋子、芦田伸介の3人で、

娘陽子をいじめる母親夏枝役の新珠三千代は、きっと日本中の視聴者から精神的バッシングを受けたであろう。

後に「細腕繁盛記」でいじめられ役を演じたが、それでもチャラにならなかったであろう。


夏枝役は、その後若尾文子南田洋子小山明子いしだあゆみ浅野ゆう子などが演じており、

陽子役は、安田道代、島田陽子などが演じている。



中学生の私は、「氷点」はメロドラマ、よろめきドラマだと思っていた。

大人になって、「塩狩峠」で三浦綾子に大変感動し、

それから「氷点」を遅ればせながら読んだのであった。


少し前、「塩狩峠」と「氷点」を職場の若い連中に薦めたところ、

痛く感動したようであった。



妻夏枝に対する夫啓造の冷たさ、娘陽子に対する母夏枝の冷たさ。

氷のような心は、どのように生まれてくるのか、

そのような心は氷解することはあるのだろうか。


旭川の主婦だった三浦綾子は、執筆前に主人公の夏枝と陽子と啓造を生み出したときに、

タイトルを「氷点」としたときに、この小説の骨格を確かなものにしたのだろうと思う。



今年の冬、「氷点」はまたドラマ化されるようである。

それまでに、「氷点」「続・氷点」を読まれることをお奨めする。


私には夏枝をバッシングする感情は、微塵も湧いてこなかった。


神は人間を創ったときに、完璧にしてくれなかった、

少し試練を注入して、考え進歩する余地を残してくれた。

そのことを、この小説が教えてくれたからである。



読みやすい文体の行間に、原罪を感じられたい。


【原罪】
  アダムとイブが禁断の木の実を口にし、神の命令に背いた罪。
  アダムの子孫である人類はこの罪を負うとされる。