知人に借りたDVD「マイルス・デイビス・ストーリー」を観る。
マイルス・チルドレンと呼ぶべきミュージシャンが数多く登場。
彼の元恋人、元妻(複数)、子供、甥、トランペットの師匠、音楽仲間なども登場。
マイルスを身近で見てきた彼らの証言が、このDVDの中心をなす。
もちろん、懐かしい演奏家のオンパレードとなっている演奏のシーンもふんだんにある。
マイルスは、若い頃から麻薬に溺れた生活であった。
若かりし日に、パリでシャンソン歌手のジュリエット・グレコと恋に落ち、
アメリカに帰国してから、ドラッグ漬けの生活になったようである。
グレコとの離れた生活や、やるせない人種差別や、愛のない家族との関係など、
常に彼は、耐え切れない悩みを薬で誤魔化していたようであった。
また、手塩にかけて育てた自分のバンドのメンバーが巣立っていくのが寂しかったようでもある。
特に、同い年のコルトレーンが出て行ったのがショックだったようである。
でも彼は、めげることなく、次々とめぼしい若手に声をかけて、自分のバンドに入れて、
束縛することなしに、彼らからヒントも貰って、足踏みすることなく死ぬまで進化し続けていった。
マイルスから声をかけてもらったとき、「天にも昇る気持ちだった」と、
異口同音に振り返るミュージシャンたちの証言が、嬉しくなってくる。
ジミー・コブ、ロン・カーター、チック・コリア、キース・ジャレット、
ハービー・ハンコック、デイブ・ホランド、ジョン・マフラクリン、
ジョー・ザヴィヌル、ディジー・ガレスピー、クラーク・テリー、
ジャック・ディジョネット、デイブ・リーブマン、マーカス・ミラーなどが、
楽しい話を聞かせてくれる。
幸せな気分にさせてくれる。
マクラフリンに引っ張っていかれたジミ・ヘンドリックスのコンサートを観て、
大いに刺激を受けたマイルスは、しばらくしてあの「ビッチェズ・ブリュー」をリリースしたという。
このエピソードは意外であった。
一時期恋人だったヨーロッパの女性が、マイルスから届いた葉書を見せながら、
如何に彼がきちんと愛を授けてくれたかを、笑顔で幸せそうに語るシーンが非常に印象的であった。
いつも怒ったようなこわもて顔のマイルスは、瞬間瞬間を真剣に生きて、
自分のかかわった人たちをとても大切に扱ったことが、よくわかったのである。
きっと、今頃マイルスは天国で、チャーリー・パーカーやバド・パウエルや、
コルトレーンやビル・エヴァンスと、楽しいセッションでもしているのであろう。
人を愛すれば人から愛される、これがマイルスの人生だったような気がする。
素晴らしい、ザ・ストーリーであった。