NHKの「週刊ブックレビュー」のインタビューコーナーで、私は姿を見ていた。
視線が上向きの、少年の心のまま大きくなったような好青年であった。
ことのほか、中世のヨーロッパに惹かれている青年である。
その後、どなたかのブログだったか、この本の紹介記事をみて、
表紙を見て面白そうだと直感で購入した。
「ジャガーになった男」が、デビュー作となる。
伊達藩士・斉藤小兵太寅吉は恋人を捨て、冒険を求めて、支倉常長遣欧使節に加わった。 着いたイスパニアはすでに全盛期の栄光を失っていたが、一人のイタルゴ(戦士)と意気投合し、 共に戦場に赴くために、帰国する使節団と訣別する決心をする。 トラキチが初めてイスパニヤの地を踏んだとき、陽気なセヴィジャの巷は、ドン・キホーテ・ デ・ラ・マンチャの話題で持ちきりとなっていた。 17世紀のスペインに奥州武士が登場。比類なく奇想天外なストーリーが展開する。 第6回小説すばる新人賞受賞作に大幅加筆、600枚の長編となったロング・バージョン。
少し前に再読したばかりの「三銃士」(http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/27489249.html) の
雰囲気に似ていると感じ始める。
フランスとスペインという舞台の違いはあれ、まったく同時代なのだから似ていて当然なのだが、
なんとなんと、斉藤寅吉はフランスの銃士隊長トレヴィルと、オランダの地で一戦を交える、
名乗りあって決闘することになるのである。
アトスとアラミスも決闘場面に介添え役で登場する。
著者の佐藤賢一は、自作の主人公を実在の凄腕と闘わせたかったのだろう、
読み手へのサービス精神も怠りない。
やがて、寅吉は欧州から海を渡り、新大陸ペルーで、
ジャガーと呼ばれる男になる。
仙台で許婚(いいなずけ)と訣別し、スペインへ渡り、
スペイン人の妻を放置したまま、今度は新大陸に渡る。
ペルーではスペイン人に抑圧されたネイティブ側に組し、
部族の神を象徴する巫女を幸せにするため、妻にするために、
ジャガーとなったのである。
寅吉は、めっぽう女好きである。
しかし、戦うことが好きで、大暴れしたくてしたくて、
引き止める女を振り切って、血なまぐさい戦場を求めて、世界を股に架ける。
男に刃物や飛び道具を持たせると、女は幸せにならない。