東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964年)
丹下健三の作品を訪ねて、彼の偉業をたどる番組であった。
■広島平和記念公園(1955年)
■香川県庁舎(現・東館)(1958年)
番組は、以上の代表作を、まずじっくり鑑賞させてくれた。
いつ何度どこから観ても、変わらずずっと素晴らしい。
モチーフに、日本の伝統的な「神社」や「寺院」様式を借りてきても、
モダンな、しかし嫌味のない上品な作品に作り上げてしまう。
深い思索の結果生み出された、なんとも軽やかな美しさに、
あらためて感動した。
そして、丹下自身の一番のお気に入りが、
■東京カテドラル聖マリア大聖堂である。
この作品も、代々木体育館と同じ1964年の竣工である。
コンクリートとスチール屋根の教会で、
石と木の伝統的な西洋の教会の、対極にある建物である。
しかし、天空から見ると屋根の形が「十字架」であるところは、
ヨーロッパの教会と同じである。
外観に使った材質は、当時としては相当アヴァンギャルドであったと思うが、
どこを切り取っても、完成された洗練されたデザインで、
しかも、敬虔な教会のイメージを損なうことはない。
内部は、木や大理石など自然のものを多く用い、
外壁の人工的な素材と何の違和感もなく調和させている。
縦に長くとったスリットで、崇高な自然の光を聖堂内に取り込み、
堂内の人の目と心を、天上に導いてくれる。
番組の案内役のお嬢さんが、
祭壇の前で涙するのを見て、さもありなんと思った。
マリアさまに導かれし魂と、丹下の作り出した荘厳な静けさに、
彼女は涙したのであろう。