遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

アラバマ物語/ロバート・マリガン

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  アラバマ物語   


公開: 1962年
監督: ロバート・マリガン
原作: ハーパー・リー
音楽: エルマー・バーンスタイン
出演: グレゴリー・ペック/メアリー・バダム/フィリップ・アルフォード/ロバート・デュバル


ついこの前、NHKのBS放送で、

2003年に企画された、アメリカ映画協会(AFI)選定、

映画ヒーロー・ベスト50特集を放送していた。


そのランキング1位に、少し驚いた。

アラバマ物語」で、グレゴリー・ペックが演じた正義の弁護士、

アティカス・フィンチだったからである。


2位から10位までは、うなずける、有名ヒーロー&ヒロインばかり。

彼らを抑えて1位。意外であったけど、当然といえば当然か、

アティカス・フィンチはアメリカ人の「誇り」のようなのだ。


ランキングリスト

1位 アティカス・フィンチ=グレゴリ・ペック       「アラバマ物語」 1962 ロバート・マリガン  
2位 インディアナ・ジョーンズ=ハリソン・フォード    「レイダース/失われたアーク」1982 S・スピルバーグ 
3位 ジェームス・ボンド ショーン・コネリ       「007ドクタ・ノオ」  1962 テレンス・ヤング  
4位 リチャード・ブレイン=ハンフリ・ボガード     「カサブランカ」   1942 マイケル・カーティス  
5位 ウィル・ケイン=ゲイリ・クーパ          「真昼の決闘} 1952 フレッド・ジンネマン  
6位 クラリススターリング=ジョディ・フォスター  「羊たちの沈黙」 1991 ジョナサン・デミ  
7位 ロッキー・バルボア=シルベスタ・スタローン   「ロッキー」 1976 ジョン・G・アビルドセン  
8位 エレン・リプリーシガニー・ウィーバー     「エイリアン2」 1986 ジェームス・キャメロン  
9位 ジョージ・ベイリー=ジェームス・スチュアート  「素晴らしき哉、人生!」1946 フランク・キャプラ  
10位 T・E・ローレンス=ピータ・オトゥール     「アラビアのロレンス」 1962 デビッド・リーン 



私は、去年「第三の男」 http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/12459505.html



などと一緒に買った、「アラバマ物語」のDVDの封を切って、三十年ぶりの鑑賞と相成った。

(私の買ったDVDは500円のもので、画像のジャケット写真とは別物である。)


原作は、この作品でピューリッツァー賞を受賞した、ハーパー・リー。


無実の黒人青年の弁護を請け負った弁護士が、主人公のアティカス。

G・ペックは、この作品で観客からも批評家からも絶賛を浴びて、

アカデミー主演男優賞を獲得。まだ、35歳であった。

35歳で、この堂々たる、でもちっとも力の入らない自然な演技で、

文句なしのオスカー獲得であった。


この作品、大きな幹は、1930年代のアメリカ南部アラバマ州の人種問題である。


そして、もうひとつの大きな幹が、

アティカスと2人の子どもと黒人のお手伝いさんという構成の、

弁護士一家の「生きよう」である。

子どもたちの母親は、既に亡くなっていて、

主人公が小さな子どもたちを清らかに育てて行く過程が、

小さなエピソードを通して、多く語られているのである。


貧困や無知も手伝って、黒人たちを蔑視する大人たちや、

母親に代わって子どもたちを躾けるお手伝いさんや、

長い間引き篭もっているらしい、姿の見えない近所の青年や、

貧しくてお昼弁当を作ってもらえない、長女の同級生など、

社会に取り残されそうな人たちが、小さなエピソードに次から次に登場する。


黒人と白人、貧困と富、無知と教養、病と健常等々、

「勝ち組」じゃないと差別やイジメに会う。


主人公一家の子どもたちの素直な目線で、時代や人間社会が描かれ、

「相手を思い遣る気持ちを常に持ちなさい」と、

言葉と態度で示す彼らの父親像が、オスカー像のようにまぶしい。


長女役のメアリー・バダムの演技が素晴らしく、

これが映画デビューとなる、あのロバート・デュバルも、

ハッとする場面で上品に登場してくれる。



冒頭のタイトルバックの、缶に入れられた一見ガラクタのような小物たちが、

映画の途中で、ポツポツと子どもたちに届けられる。


子どもは、親の厳しい愛情と、社会の温かい眼差しで育てるものだと、

教えてくれる秀作である。