遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「贋作・罪と罰」/NODA・MAP第11回公演

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「贋作・罪と罰」/NODA・MAP第11回大阪公演

◎公演会場:シアターBRAVA!
◎公演期間:2006年2月6日(月)~2月18日(土)

《キャスト》
松 たか子:江戸開成所の女塾生・三条 英(さんじょう はなぶさ)
古田 新太:英の親友・才谷 梅太郎(さいたに うめたろう)
段田 安則:殺人事件の担当捜査官・都 司之助(みやこ つかさのすけ
宇梶 剛士:豪商・溜水 石右衛門(たまりみず いしえもん)
美 波  :英の妹・智(とも)
野田 秀樹:英の母・清、老婆おみつ 


去年の10月、先行予約にもかかわらず、1時間半以上申し込み電話をかけ続け、
ほとんどあきらめた頃に繋がった予約電話で、2006年2月11日ソワレの席を確保。

客席に取り囲まれたスクエアな舞台が、開演前の我々を出迎える。

いつもにも増してシンプルでモノトーンな舞台装置で、
小道具兼大道具になる「椅子」が、並べてある。

椅子は、椅子になり寝台になり道路工事のドリルになり、
バリケードにシェルフに、舞台が始まると様変わりしていく。
暗転も幕間もないので、役者たちがさまざまな形の椅子を片付けたりセットしたり、
積み上げたりする、それも演技のひとつである。

ドストエフスキーの「罪と罰」を下敷きに、
ラスコーリニコフを、江戸開成所の女塾生・三条英(さんじょうはなぶさ)として、
松たか子が演じた。

「オイル」(NODA・MAP第9回公演→ http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/8141290.html
に続き、大阪では連続の主演公演である。

高利貸しとその妹を殺した罪を背負った、重い役柄を熱演。

ふつう、役者は出番が終わると舞台裏に引っ込むが、
今回はスクエアな舞台の周りに置かれた椅子で次の出番を待つ。
衣装替え以外は、舞台裏に引っ込まないのである。

最初に一回だけ衣装を替えた松たか子は、2時間あまりを、
舞台の上で演技をするか、袖の椅子でぴんと背筋を張って待ち状態。
常に観客の眼の届くところに居るのであった。

舞台の袖で、肩で息をして待つ真紅の衣装の松の様子が、手に取るようにわかる。
この日は、マチネも演っているのだ。

しかし舞台上では凄い。

ラスト近く、対峙した才谷梅太郎(古田新)に
「罪を認めて罰を受け入れろ」と諭されたあと、
三条英が、腹のそこからの金属質のものすごい声で、
その声だけで慟哭を繰り返す場面は、圧巻であった。

これは、生の舞台でしか出会えないことである。
何の電気仕掛けも介在させない生の声でないと、伝わらないものがあるのだ。
この慟哭の後、英は、微笑をたたえた人間らしい姿に変身する。

共演の古田新と段田安則もさすがに素晴らしい。

殊に、「ゼンダ城の虜」(1992年/ 劇団夢の遊眠社
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/6620328.html
以来14年ぶりに観る段田は、三条英を追い詰めるクールな捜査官を、
圧倒的な声のトーンとスマートな立ち居振る舞いで見事に演じ、
NHK「迷宮美術館」の司会者とは別人であった。 ☆五つ!

最後に、罰を受け入れた英は、
「十字路の真ん中で、四方に謝罪して大地に接吻」する。
「そうすれば、新しい時代はお前を認めるから」と言う才谷梅太郎の言葉に従って。

考えすぎかもしれないが…。
野田は、これを日本にやれと言うのだろうか。
世界の中心で、先の戦争の罪を四方の国に謝罪せよと言いたいのであろうか。

エンディングに、獄中の三条英が才谷へ宛てた手紙の文面を、
感動的な音楽をバックに独白する。

これが、   実に実に  カッコイイ。

その手紙の日付は、「師走八日」であった。