遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ブリキの太鼓/フォルター・シュレンドルフ

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ブリキの太鼓 79西独/仏 DIE BLECNTROMMEL
 
 ■製作・脚本 フランツ・サイツ 
 ■監督・脚本 フォルター・シュレンドルフ
 ■原作 ギュンター・グラス
 ■音楽 モーリス・ジャール
 ■出演 ダービット・ベネント/マリオ・アドルフ/アンゲラ・ビンクラー
 ★アカデミー外国語映画賞(1979)、カンヌ映画祭グランプリ(1979)


ブリキの太鼓」は、ドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラス

の同名小説を映画化したものである。

私は20歳代後半にこの映画と出合った。


グラスの生まれたポーランドダンツィヒを舞台に、

少年オスカルを中心に、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの間の、

時代と民衆を描いた作品である。


主人公の少年の家庭環境とその土地と時代は、グラスのそれと同じである。


3歳の誕生日に母親からもらった「ブリキの太鼓」。

その誕生日パーティで目にした大人たちを見て、ブリキの太鼓とともに

オスカルは階段から転げ落ち、成長することを拒否する。


「大人なんかになりたくない」少年と、それを取り巻く家族たちの生活と、

ナチスの台頭してきた不安な時代を、忠実に描いた秀作である。


人間は、生まれてそして死んでいく。

「そして」には、いろいろな要素がある。


生まれて、

傷つけ傷ついて 愛し愛されて 笑って泣いて 喜んで落胆して

騙し騙されて 彷徨って居着いて 憎み憎まれて 創り上げて打ち壊して

死んでいく。 


この作品を、気持ち悪いとか、グロテスクだと言って顔をしかめる向きもあるだろう。

そういう向きには、淀川長治なら「あなた、鏡で自分のことをよく見なさいね。」

と言うだろう。


生まれて、そして死んでいく人生は、けっこうグロテスクなもんである。

「そして」には、気味悪い要素がたくさんあると断言できる。

それを百も承知で生きていく人生、だからこそ素晴らしい人生なのである。


この映画には、さらっとクールで洒脱な人間は一人も出てこない。

まさに、われわれと同じ人間がそこに描かれているのである。


幸せに生きることを追求する、異様さを伴ったいやらしい汚い醜い脆弱な、

しかし「殺し殺され」る人生は御免蒙りたいという源流が、心の奥底に静かに流れている、

我々と等身大のそんな人間が描かれている。


オスカル少年のトランペットが窓辺で奏でる「インターナショナル」が、

美しく印象的であった。




キネマ旬報「オールタイムベスト・ベスト100」外国映画編(1999年版)
第51位

私の採点=☆☆☆☆★
(☆=20点 ★=5点 但し☆☆☆☆★★以上はない)