遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

想田和弘監督「選挙」&「選挙2」/自民党向きでない山さん観察映画

数日前から体調が悪くて(原因は判明している)、ウォーキングも自粛して安静状態の日々。

そんな中、想田和弘監督ドキュメンタリー映画がPrimeVideoで見られることを知り、立て続けに「選挙」「選挙2」を鑑賞。

2005年、当時40歳でコイン商を営む山内和彦こと山さん」がひょんなことから選挙に立候補するのですが、その山さんの選挙運動をただひたすらに追い続けた観察映画が「選挙」です。

想田和弘(撮影当時35歳)をドキュメンタリー監督として世に知らしめた映画がこの作品でした。

想田の観察映画は、音楽もナレーションもなく、撮影現場の映像と音声だけというシンプルさですが、そのために映像から迫力のある息遣いを感じられます。

山さんは東大卒ですが、東大新聞の編集長だった経歴のある想田とちがって、山さんは政治と無関係な人間で、選挙の手伝いさえ経験がないような人物と見えました。誰が探してきたのか、当時の小泉首相のお膝元の神奈川県の自民党公認で市議選の補欠選挙に担がれて立候補しました。

万全な体調なら、山さんの選挙の主体である「自民党の選挙」に辟易としていたと思うのですが、体調が悪かったので割りと冷静に鑑賞できました。

山さんにつく地元の国会議員は、驚いたことになんとあの「壺議員」山際大志郎でした。彼は当時37歳で、山さんに先輩面しているのですが、すでに若くして国会議員になっていたのでした。(山際は、2002年の初の国政選挙では落選しましたが、当時すでに統一教会の指示を受けていたそうで、54歳のいまだに国会議員として当選し続けているのですから、壺議員である理由が納得できます。)

山さんは、1つの席を候補者4人で争った補欠選挙戦をかろうじて勝利するのですが、小泉自民党補欠選挙という条件下での勝利だったと思います。

しかし、面白かったのはその短い選挙戦から見えてくる自民党選挙の様相で、たとえ市議選であろうと、二世議員に保障されているであろう知名度や選挙地盤やステイタスや金が大きくものを言うことが容易に知れます。そしてそれらを持たなければ、あられもなくカルト教団にすがるのでしょうか。

清廉な山さんはポンコツな軽自動車に乗り、小さな安アパートのようなところに妻と暮らす何も持たない平凡な市民でした。

時が流れ、一般市民に戻っていた山さんは2011年の震災直後の4月の川崎市議選で、ふたたび選挙を戦うことになります。その様子をトレースしたのが「選挙2」です。

46歳になっていた山さんは震災による原発被害に怒りを覚え、3歳の子どもの父親でもあったことから、子どもたちの未来のために立ち上がりました。

2度目の選挙は、震災後まだ1か月に満たないなか急きょ立候補を決めました。

選挙準備は全くなく、金もなく、無所属で選挙カーによる街宣もなく、公費を拒否した手作りのポスターをあのポンコツ軽自動車で一人で貼りまくり、広報と推薦はがきだけで既成政党候補に挑みました。

推薦政党や支援団体のまったくない選挙戦が、映画「選挙」パート1と好対照で、しかも映画「選挙」は、ドキュメンタリー映画として受賞歴もあり世間や地元政治家に認知された中での選挙戦でしたから、カメラを向ける想田監督への自民党議員からの風当たりが厳しくて、それもまた映像として世界に発信されることを想像できないのだろうかという面白さもありました。

政治家の使命は、選挙で当選して議席を稼ぐことなんですが、それを積み重ねるとなんだか妖しいみすぼらしい人間になるのだろうなと思ったしだいでした。

ちなみに今の神奈川県の地方議員の最終目標であろう自民党の神奈川選出国会議員は、甘利明小泉進次郎河野太郎菅義偉山際大志郎義家弘介三原じゅん子、その他13人ですし、あの猥雑なメール元の黒岩県知事さんもご健在ですから、まことに失礼ながら大阪に負けないお化け屋敷の様相を呈しています。

ということで、「選挙」と「選挙2」を一気に楽しみましたが、山さんのような人は選挙や政治家と対極のところにいる人間だなと思われた方は、人として大丈夫なお人なんだろうなと思うのでした。

 


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想田和弘@KazuhiroSoda
戦争は政治の失敗によって起きます。血を流す覚悟なんて、僕は絶対にしません。絶対に絶対にしません。

想田和弘作品
選挙(2007年、監督・撮影・編集・製作)
精神(2008年、監督・撮影・編集・製作)
PEACE(2010年、監督・撮影・編集・製作)
演劇1・2(2012年、監督・撮影・編集・製作)
選挙2(2013年、監督・撮影・編集・製作)
牡蠣工場(2016年、監督・撮影・編集・製作)
港町(2018年、監督・撮影・編集・製作)
The Big House(2018年、監督・撮影・編集・製作)
精神0(2020年、監督・撮影・編集・製作)