遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「らんまん」の主人公モデル牧野富太郎の生涯「ボタニカ」を読みました

ボタニカ  朝井まかて  祥伝社

朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルは高知生まれの植物学者牧野富太郎1862年文久2年- 1957年・昭和32年)。

私はガーデニングを始めて20年くらいになるが、さまざまな植物図鑑などにその名を残す牧野富太郎をその頃から知ることになる。なので、牧野がモデルとなる朝ドラ「らんまん」が決まって、ずっと楽しみにしていた。

書評のタイトルだけを扱った記事を書き続けているので、朝井まかての「ボタニカ」の存在は知っていたが、不覚にも牧野の伝記小説だと知らなかった。

このほど、週刊朝日の書評で斎藤美奈子が紹介してくれたのが本書「ボタニカ」で、牧野の伝記はこれが一番とのことだったので読み始めたのだった。

富太郎の94年の生涯のほとんどが夢中で取り組んだ植物採集で、まだ交通事情が充実していない時代に、まさに自分の足で全国をかけめぐって植物採集をしていた。

牧野が作る植物標本は無計画に数を増やしていったが、彼の人生も同じく無計画で、その傍若無人ぶりは迷惑を通り越していたが、悪人に描かれているわけではなく楽しい読み物であった。

自然科学の学者とはいえ、われわれの周辺にある植物がその研究対象なので、富太郎のフィールドワーク物語に難なく付き合えることが嬉しい。彼の名付けた植物は2500種くらいだと本書に述懐されていたが、その膨大な仕事ぶりとともに、彼を慕う植物学アカデミー関係者と彼を支えた家族の人間物語となっている。

読後、牧野をネット検索したら笑顔の写真がほとんどで、洒脱な本書の表紙の人物像も牧野の魅力的な人物写真から写されたものである。また、同じくネットに上がっている彼の植物スケッチは見事で、彼の植物絵画は絵師の手を経ないでそのまま専門書や図鑑になったことが頷ける。

朝井まかては、比較的多作な作家だと思うが、それにも拘らず膨大な資料と文献と論文を読み解いて整理してこんなに面白い仕事を残せる才能に舌を巻く。牧野富太郎もびっくりの情熱家なのだろうか。

朝ドラはまだ始まったばかりだが、おそらく牧野の生涯のうち朝ドラに相応しくない部分はカットされるだろう。それにしても、「ボタニカ」で先読みしても、「らんまん」は2倍楽しめると思うのだった。