昨日、名人挑戦者を決める順位戦A級リーグで7勝2敗の相星となった藤井聡太(20)五冠と広瀬章人(36)八段のプレイオフ対局が行われ、藤井聡太が勝利し4月から始まる名人戦の挑戦者となりました。
名人戦のタイトルマッチの出場資格は、順位戦のA級(10人総当たりのリーグ)で最も成績の良かった者に与えられます。
順位戦は年間を通じて戦うリーグ戦で、下からC級2組、C級1組、B級2組、B級1組、A級と5つのクラスに分かれていて、多くの棋士がプロデビューするとC級2組から参加します。そのため、名人への挑戦権を獲得するのはデビューから最短でも5年かかるのですが、藤井はC級1組で1年留年して結局6年目にA級に上がりました。
そして今年度はじめてのA級で、藤井はなんとか負け数を2にして広瀬とともにトップの成績でシーズンを終えプレーオフの末、昨日の決戦で勝利したのでした。
かつて、米長邦雄という棋士がいて、7回目の挑戦を経て1993年にようやく49歳で名人になりましが、その時米長は「来年、アレが出てくるんではあるまいか…」といったそうです。アレとは、その年A級に昇級してきた羽生善治のことで、その予言通りに羽生が次の年名人挑戦者になり、米長は名人を奪取されました。
昨年、名人を3連覇した渡辺明は名人就位式で「将棋界では以前、米長先生が同じような状況で非常に名言を残されていたんですけれども...」と語り、その後は言葉を濁したそうですが、30年ぶりに「来年、アレが出てくるんではあるまいか…」と言いたかったようです。
渡辺が明言を避けた「アレ」とは、2022年にA級に上がって来たばかりの藤井聡太でした。
まあ、名人でなくとも誰もが「アレが出てくるのでは...」と思いましたが、五冠の防衛戦の合間をぬってA級の9人の猛者を相手に6月から3月までほぼ月1回対局を繰り返す長丁場のリーグ戦ですし、どうなるかなーと楽しんできました。そしてその結果、渡辺名人の予感は、そのまま現実となりました。
藤井聡太の歩んできたまるで長いダンジョンのような「名人への道」は、ようやく出口に差し掛かってきましたが、そこには名人というラスボスが待ち構えています。
渡辺明(38)名人は、名人になかなか手が届かないまま2018年に一旦A級を陥落したのですが、B級1組を全勝(史上2人目)して2019年にA級に復帰し、そのままA級でも全勝(史上4人目)した勢いで2020年の名人に挑戦しタイトルを奪取しました。2018年以降の渡辺の強さは、30代半ばという年齢を感じさせない鮮烈なものでした。
加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明は中学生棋士としてデビューし名人になりましたが、この系譜は史上5人目の中学生棋士藤井聡太が受け継ぐことは疑いの余地もありません。
「おおきくなったら しょうぎのめいじんになりたい」と言った6歳少年の夢は、もう手の届くところにあります。
来たる名人戦を楽しみに待ちたいと思います。