遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

成人、おめでとうございます 「本を読んで下さい」

民法改正により2022年4月1日より成年年齢が18歳に引き下げられましたので、成人になった人の数はいつもの3倍もいます。

しかし、いわゆる成人式は20歳の成人(と同一学年)に招待状が届くのでしょうね。「はたちのつどい」と名称変更して成人式が行われるケースも少なくないようです。

さて、鴻上尚史時事通信から「成人の日によせて」という原稿を依頼されたのですが、原稿を20か所以上も修正せよとのことで、鴻上尚史は納得できないということでのやり取りで、結局原稿が没になったようです。

せっかく書いた文章なので、ということで鴻上君自身のTwitterにその全文が貼り付けられました。

没原稿になったことでちょっとバズっていて、逆にこの文章が拡散されていてとても愉快な現象になっています。(没になってよかった⁉)

ご親切な方が、テキスト形式に変換してくださったので、最後にその全文を載せておきました。

体言止めがなくても美しい文章です。人も文章も見かけではなく中身が大切で、美しさもそこにあると思います。

本を読んだり文章を書いたり、映画・演劇・ドラマを見たり、音楽を聴いたり演奏したり、美術館に行ったり絵を描いたりすれば美しい大人になれると私は思いますし、鴻上君も私の意見に賛成してくれると思います。

とりあえず「本を読む」から始めたら、いかがでしょう。

成人、おめでとうございます

 

成人の日によせて  鴻上尚史

 成人、 おめでとう。 でも、「大人になる」 はどういうことでしょうか? 
 僕は親や先生や先輩や友達の意見にただ従うのではなく、 「あなた自身の頭で考えること」 だと思っています。 自分の人生を自分で決めるということですね。 けれど、これはとても難しいことです。 だって、日本の若者達はずっと「自分の頭で考えるな」 という訓練を受けてきたからです。

 日本の多くの中学校や高校では 「中学生らしい」 「高校生らしい」 服装や髪形にしよ うと言われています。 けれど、 「高校生」 というイメージは、 様々です。 それぞれの人 の頭には、それぞれのイメージがあります。 それを 「高校生らしい」 という一言でまとめるということは、 「考えるな」 ということです。
 リボンの幅が3センチは「高校生らしい」 が4センチになると 「高校生らしくない」ということを論理的に説得できる大人はいないと思います。
 僕は愛媛県出身ですが、 「愛媛県人らしい服装をして下さい」 と言われたら、絶句す ると思います。 あなたも 「出身の都道府県人らしい格好をして欲しい」 と言われたら混乱するでしょう。 それと同じくらい「高校生らしい服装」 というのは定義不能なのです。

「服装の乱れは心の乱れ」という日本中でくり返される標語がありますが、大人に気付かれないように巧妙にいじめる奴らの服装は乱れているでしょうか。 陰湿な奴ほど、ちゃんとした服装をしていじめることをみんな知っています。

黙ってブラック校則に従え、疑問を持つなと教えられて来たのに、 成人する時にいきなり「自分の頭で考える人になって下さい」 と言われるのです。 ずっと 「一人で泳ぐな!」 と言われてきたのに、成人したらいきなり「一人で泳げ!」 と言われるようなも のです。 それは無理です。 僕は、 日本の若者に深く同情します。

が、嘆いてもしょうがないです。 自分の頭で考える訓練を始めるしかありません。 そのためには、本を読んで下さい。 僕達は、 国語の授業でずっと 「退屈な本ほど価値が ある」 と思い込まされてきました。 でも、ワクワクドキドキしながら、 本当面白く、あなたの生き方の役に立つ本が間違いなくあります。
本屋さんに行って、 面白そうに感 じた本の最初の1ページをとりあえず読んで下さい。 つまらなければ、 すぐに次の本に移ります。 それでいいのです。 何十冊とくり返すうちに、 あなたにぴったりの本がきっと見つかります。 読書は作者との対話であり、あなたの考えを深めます。 やがて 「自分の頭で考えること」 が身につくようになるのです。 さあ、成人して、やっとあな たは自分の頭で考えていい世界に来たのです!