遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「D.P. 脱走兵追跡官」 徴兵されなければ彼は脱走しなかった

「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を見終わって次に見る韓流ドラマを見つけるためもあって、Youtubeにアップされていた別名韓国のゴールデングローブ賞と言われる「百想(ペクサン)芸術大賞」(日本語訳付き)の授賞式を何気なく見ました。「百想芸術大賞」を初めて知りましたし、同賞は58回も続いている賞なんだということも、そのYoutubeを見て初めて知りました。

58回授賞式は2022年5月に開催されたようで、知っている俳優や作品が受賞するかなと見ていたら、未見の作品に出会うことができたのでした。

それが「D.P. 脱走兵追跡官」というドラマでした。完全に取りこぼしていたこのドラマを知ることができて、私はしあわせ者なのでした。

58回の百想芸術大賞の主な受賞者・受賞作品は、大賞『イカゲーム』、作品賞『D.P. 脱走兵追跡官』、監督賞ファン・ドンヒョクイカゲーム』、脚本賞キム・ミンソク『未成年裁判』などでした。

イカゲーム」「未成年裁判」は私も見ましたし良い作品だったのですが「D.P.-脱走兵追跡官-」(以下「D.P.」)という作品は、はじめて知るドラマでした。

百想芸術大賞で作品賞を受賞し、受賞はならなかったものの最優秀男性演技賞にノミネートされた俳優(チョン・ヘイン)が主演、男性新人賞を獲得した俳優(ク・ギョファン)が準主演し、男性助演賞を受賞した俳優(チョ・ヒョンチョル)が共演するドラマが「D.P.」でした。

これはぜひ見るべきだと思いNetflixで検索したら収録されていたのでさっそく見始め、エピソードは全6話で1話50分前後でしたので3日くらいで見終わりました。

舞台は韓国の軍隊で、入隊したばかりの主人公は、D.P.に配属され脱走兵追跡官に任命されます。

ご存知の通り、韓国は兵役義務があり、2020年現在で陸軍は18カ月の服務期間が義務付けられています(海軍は20カ月、空軍は21カ月)。

このドラマは2014年当時の設定ですから、兵役期間はもう少し長かったかもしれませんが、入隊したばかりの新兵は先輩たちからひどいイジメを受けます。このドラマに通底するテーマは、「軍隊でのイジメ」で、だからこそ脱走する兵士が後を絶たず、D.P.という部隊が必要となってきます。

主人公(チョン・ヘイン)はストイックな青年で、その相棒となる先輩の上等兵(ク・ギョファン)は遊び人風だけど先輩面をしない青年で、この二人の有能な好青年が脱走兵を追跡するために韓国中を駆け巡る仕立てになっています。

追いかける兵士も脱走して逃げ続ける兵士もいろいろ事情を抱えていて、その双方の人間ドラマがよく練られていて、スリリングな場面展開も秀逸です。

入隊した軍隊での悩みや怨みもあれば、兵士がいままで暮らしてきた現実社会に残してきた諸事情もあるので、軍の内部と実社会の二つの社会を行き来できる二人の若くて有能な捜査官の活躍ぶりがこの作品の骨格となっています。

助演賞を受賞したチョ・ヒョンチョルがメインの全エピソードの後半部分の盛り上がりが息をのむほどすごくて、6エピソード全体の構成も実によく考えられていて、素晴らしいものでした。

「徴兵されなければ彼は脱走しなかった」という主人公がつぶやくフレーズ。このドラマが韓国社会に投げかけた深いメッセージでもあったのでしょう。

私が知らなかっただけかもしれませんが、このドラマは日本ではあまりヒットしなかったのでしょうか、それはなぜなのか不思議ですが、一見華やかさに欠けるからかもしれません。

過去に見た韓国ドラマのマイランクで、「梨泰院クラス」が80点、「愛の不時着」などが75点、「イカゲーム」などが70点クラスとするなら、「D.P.」は75点クラスにランクインする作品です。

このドラマは、シーズン2が製作されると発表されたそうで、次の作品群が待ち遠しいきょうこの頃なのであります。

第58回百想芸術大賞
【TV部門】
大賞 『イカゲーム』
作品賞 『D.P.-脱走兵追跡官-』
監督賞 ファン・ドンヒョクイカゲーム』
脚本賞 キム・ミンソク『未成年裁判』
最優秀男性演技賞 イ・ジュノ(ジュノ/2PM)『赤い袖先(原題)』
最優秀女性演技賞 キム・テリ『二十五、二十一』
男性助演賞 チョ・ヒョンチョル『D.P.-脱走兵追跡官-』
女性助演賞 キム・シンロク『地獄が呼んでいる』
男性新人賞 ク・ギョファン『D.P.-脱走兵追跡官-』
女性新人賞 キム・ヘジュン『調査官ク・ギョンイ』
芸術賞(音楽) チョン・ジェイル『イカゲーム』
【特別賞】
TikTok人気賞 イ・ジュノ(ジュノ/2PM)『赤い袖先(原題)』
TikTok人気賞 キム・テリ『二十五、二十一』


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