遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ポリアモリーを知っていますか? 小説「きみだからさびしい」

きみだからさびしい    大前 粟生  (著)    文藝春秋

大前粟生(おおまえ あお)著、小説「きみだからさびしい」を読みました。

4月中に週刊文春、女性セブン、朝日新聞の書評欄に取り上げられていたので(書評の内容は全く読まなかったのですが)、本書に興味を持ったので読んでみました。

著者は女性だと思っていて、途中でググったら兵庫生まれ京都在住の男性作家(1992年生まれ29歳)でした。

ホテル勤務の良い雰囲気を持つ主人公24歳の圭吾は、ゲイの同期に告白されます。しかし、ノンケの圭吾は大好きな片思いの女性がいて、彼はいつしか彼女がポリアモリーだと知ることになります。

ポリアモリーということばも概念も初めて知ったのですが、複数の相手に愛を感じる「複数愛者」のことのようです。

気の多い私もポリアモリーに該当すると思ったのですが、そのことをお互いに認知した複数の人と並行して交際する状況については想像を絶するので、私はポリアモリーではなく単なる妄想癖の持ち主だと判明しました。

で、圭吾が好きな彼女はポリアモリーの男性と交際中だという設定が、またまた今どきの多様性を扱った現代小説なのでした。

ことほどさように、人知を超える「多様性」に驚くのですが、小説を読んでいるおかげでこういう楽しい世界に出会えます。

複数愛者は、いわゆる二股ができる浮気性の人や、妻子がいるのに不倫する人とは少し異なる概念で説明できるのですが、そういった人たちは遠い過去から存在していて、新しく生まれ出たものではないようにも思います。

主人公たちが属しているボランティアサークルの活動も、内容はここに書かないがユニークで社会性があって心温まるものでした。

小説の中心なる舞台は京都は二条城周辺で、付近には私の青春の亡骸が転がっているが、こういうのを老後のいまに読んでもドキドキするのは、それもまた多様性なのでしょうか。

果たして圭吾の恋はどうなるのか...。

同じホテルに働く潔くていぶし銀的若人たちの青春群像は、それでもまぶしく光っていて彼らを愛しく感じるのだった。